こんにちは、ニンテンドースイッチで面白いゲームはないかと探しているワタリ(@wataridley)です。
今回は第四の壁すらぶち破る無責任マーベルヒーローの映画第2弾「デッドプール2(原題: Deadpool 2)」のレビューになります。
前作「デッドプール」を鑑賞した時の率直な感想は、R15も伊達じゃない残酷描写やデッドプールというキャラクターのジョークが特徴的で面白いというものでした。
ただ、ひとつ明確な不満点として、もっとぶっ飛んだ笑いやアクションを狙えるはずだとも思いました。
というのも、前作のテーマとして掲げられていた「愛」とシリアスなヒーロービギンズ的な話運びが、自分がデッドプールに期待する諸要素を和らげてしまっている面があるように映ったのです。非倫理的な残酷表現・お天道様の下には晒したくないような不真面目なブラックジョークを突っ切るには、真面目さを排したほうがいいのではないかというのが個人的な要望でした。
しかし、2においてもその真面目さは健在でした。そして驚いたことに、その真面目さの上に不真面目さが乗っかることで続編らしい作りになっていました。
デッドプールは今回、未来からやってきたというケーブルを相手取り、一人の少年を救うべく部隊Xフォースを組織し、戦いに身を投じていくことになります。デッドプール以外にも魅力的なキャラクターが加わり、シチュエーションとしても型破りな方向に突っ切ってくれたため、素直に驚き楽しむことができました。
今回の記事では、より突き詰めてストーリーのレビューとテーマの考察を行っていきます。
ネタバレを含みますので、ご注意ください。
69/100
前作からのアップデート
「2」と冠している続編とあって、前作から総合的に強化されていたと思います。面白かった点をひとつひとつ挙げていきます。
他作品をイジることすら辞さないギャグ
自分がフィクションの登場人物であることを自覚し、無神経に他の作品を引き合いに出すギャグは、デッドプールをデッドプールたらしめるアイデンティティのひとつ。
(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
今回は単純にギャグの量が増えました。悪ふざけもより過激になってきています。
映画がスタートするや否や、悪趣味なウルヴァリンの人形が映り込み、映画「ローガン」のネタバレをかまし、ドラム缶に煙草を放って自殺を試みるという色々と飲み込むのに苦労するシチュエーション。前作同様、どういう経緯で冒頭に至ったのか?を説明していくやり口でしたが、のっけから興味を惹かれる爆死でした。
ヴァネッサを撃たれ、失意の中で仇の男と共にトラックに轢かれた後のOPクレジットも思いっきり007のパロディ映像でした。シリアスで悲壮感溢れる展開なのに、デリカシー皆無なネタを突っ込んでくるものだから、思わず笑ってしまいます。
しかも、クレジットには前作から続投のヴァネッサを殺したことへの不満も書かれていました。最近では「スター・ウォーズ」新シリーズ、「キングスマン: ゴールデン・サークル」でも前作からのキャラクターが死んでしまう展開に議論が巻き起こりましたが、デッドプールは作中のキャラが「制作者への文句」という形でネタにしてしまうのです。
仮にもヒーローである彼が自殺を図ろうとする時点で目を見張るというのに、ヴァネッサが死んでしまうというショッキングな展開まで起こり、そしてそのシークエンスをふざけたパロディで締める。こんなことが出来るのはデッドプールを置いて他にいないでしょう。
オープニングシークエンスが終わってからも悪ノリは加速していきました。
「恵まれし子らの学園」では、前作同様「有名なX-MENはいないのか」とからかっていました。興行収入面ではデッドプールが最も有名なX-MENキャラクターになっているのがなんとも皮肉ですよね。挙句に果てには、プロフェッサーXの車いすやセレブロまで勝手に使い、故障させる罰当たりな行いまでやってのけていました。デップーが病み上がりで新入りになってくれた手前ではあるものの、コロッサスはもっと怒っていいだろうと思いました。
晴れてX-MENの一員になったデップーが一人前を気取った際にはネガソニックからTrainee!(見習い!)という訂正をすかさず入れられ、ファイアーフィストというネーミングに笑いをこらえられないといったお約束的なネタも挟みつつ、出くわした子供にあげるサインは「ライアン・レイノルズ」という変化球を急に投げてくるので、笑いの波まで考えられている感じがしますね。
s…ケーブルのシリアスなテンションに対してウェイドが「DCユニバース出身かよ」と形容してみせたり、能力を無効化されてしまった自分を「アベンジャーズ」のホークアイ(弓術に優れたただの人間)に喩えてみたりと、映画会社の枠を超えたジョークまで飛び出しており、その度にクスっときました。
未来からやってきた機械人間が敵ということからターミネーターネタもありました。
しかしながら、護送車を追う場面で出た名前は、有名なシュワルツェネッガーではなくジョン・コナー。ご存知の方もいるでしょうが、ジョン・コナーはシリーズでお馴染みの反乱軍のリーダーです。彼がターミネーターとして登場する作品は「ターミネーター: 新起動/ジェニシス」であり、これはシリーズ現状最新作でありながら批評家・ファンの双方からの評判が概ね悪いことで有名な作品です。さらっとそこを突くデッドプール。辛辣です。
一番の笑いどころは、エンドクレジット途中に挿し込まれたアレですね。この映画の笑いの波を棒グラフで図示すると最後だけ圧倒的に飛び跳ねる形になります。
続編ということでパワーアップしたおふざけを入れまくってくれていたと思います。上映中にしばしば笑いが漏れる、楽しい時間になっていました。
賑やかで華やかな顔ぶれ
作品の長所であるキャストについても触れていきます。
ライアン・レイノルズ、T.J.ミラー等の前作から続投した面々に加えて、新顔としてやってきたザジー・ビーツとジョシュ・ブローリン、ジュリアン・デニソン、忽那汐里は頭にこびりつくような印象を残していきました。
サ…ケーブルを演じたジョシュ・ブローリンは、強面な顔と頑健な装いで物語の終盤までをリードしてくれました。左目が発光し、左手は機械化しているというサイボーグチックなビジュアルは、定番ではありますが、童心をくすぐられます。
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どんな攻撃も防いえしまえるバリアを張って吹っ飛ぶ派手な画をくれる一方、敵を容赦なく吹っ飛ばす銃の威力調節はダイヤル式というおかしなデティールもあったりします。目を引く彼の挙措・装備は満足感と多幸感をもたらしてくれます。
原作だとデッドプールを超える巨体(203cm)らしいですが、今作では演じたジョシュ・ブローリンの身長がそれに達していないことを突っ込まれる一幕もありました。とはいえ、おどろおどろしい存在感はデップー以上なのでコミックからのファンも納得ではないでしょうか。
渋いおっさん×未来レクノロジーという属性の掛け合わせは、個人的なツボに入りました。次回作以降もデッドプールとのバディに期待したいです。
幸運こそ我が能力であるドミノも魅力的でした。ザジー・ビーツのエキゾチックで整った顔立ち、キュートな表情、ファッショナブルな縮れたヘアスタイルを目にしたら、虜になること間違いなし。
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ドミノの豪運が、映画の中で可視化されていく様はたいへん気持ちよかったです。他のXフォースメンバーが死ぬ中で唯一生き残ったあと、道路のど真ん中を突き進んでも車に当たらず、捨てたパラシュートが事故を引き起こし、それによって発生した転倒車が踏み台に。さらには、飛び降りた先にはタイミングよく護送車がやってくるという流れがピタゴラスイッチ的な爽快感。車の運転を放っておいても、ハンドルは適切に回り続ける運の良さなんかも多分に驚かされました。
Xフォースは結成して10分も経たないうちにドミノ以外の全員が死んだので記憶に残るもクソもありませんでした。しかも全員、雑魚敵のような事故死を遂げたのは笑ってしまいました。「イット/IT それが見えたら終わり」で奇々怪々なピエロを演じたビル・スカルスガルドでさえ呆気なく使い捨てられる様はほかの映画では絶対に見られないでしょうね。
普通のおっさんピーターは、オマケにて救いがあったので良かったです。おかげで彼のスピンオフの可能性が残りました。
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ジュリアン・デニソンはふくよかな体型していながら、見せる表情は病的であったりするあたりが芸達者でした。丸々とした頭と瞳が醸し出すマスコットキャラクター感は、49日は忘れません。
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忽那汐里は少ない登場時間のうちに、ウェイドと和やかな挨拶を繰り広げる様子が、さながら憩いの場になっていました。電流を発生させる能力を僅かに疲労していたので、続編では本格的なアクションを期待したいです。ネガソニックとの関係が円満であるよう祈願祈祷しておきます。
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普遍的メッセージ: 利己から利他へのパラダイムシフト
デッドプールはご存知の通り、人を傷つけるわ、殺すわ、侮辱するわ、作品自体にも文句言うわで何でもありのヒーローです。
なんでもありだからこそ、脚本もその制御に苦労されたことでしょう。
ジョークの矛先は自社のX-MENに留まらず、DCユニバース(ワーナー・ブラザーズ)、マーベルシネマティックユニバース(マーベル・スタジオ)、そして天下のディズニーにまで向いています。その他の映画作品も数々ネタにされていますし、主演のライアン・レイノルズ弄りや、製作スタッフに対する不平不満まで飛び出す始末です。
作中の登場人物の人種・バックボーン・年齢層・恋愛対象なども何でもアリ。主役のウェイドはマジョリティである白色人種ですが見た目は腐ったアボガド、彼の同居人ブラインド・アルは黒色人種で盲人、タクシー運転手のドーピンダーはインド系、今作の新キャラ ユキオは日系で同性愛者、サn…ケーブルは未来からやってきた半分機械人、ラッセルは未成年。こんだけ多種多様な人物が出てくるというのにダイバーシティのダの字も作中出てこないし、ウェイドはだいたい全ての人物に対してジョークを飛ばしています。
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このように、この世の中のあらゆる万物を茶化すことができる勢いをもったデッドプールは、極めて柔軟で包括的な気質があります。
今作で扱ったテーマも「他者を救えば救われる」という実に普遍的なものでした。なにもアメリカ社会、白人、ヒーローでなくとも、地球上の誰もが取り組むことのできる話なのです。
物語の冒頭、恋人を失った絶望から、彼は死を望んでいました。映画「ローガン」を引き合いに出して爆死を試みたり、アイスボックスでヒーリングファクターを封じられても死を待つばかりであったりと投げやりな姿勢を見せ、とうとうラッセルを見放してしまう言動もとってしまいました。
この映画は生きる意味を見出せない不死のデッドプールが、それを見出すまでの話になっています。序盤の彼にとっての悦びは恋人のヴァネッサ。ところが、子作りして彼女と家族になろうというところでそれが叶わぬものになってしまいました。
死んで彼女の元へ行くという願いも成満せず、彼はコロッサスの説得もあってX-MENの一員として「心が正しい場所」に向かうよう善行を積もうとします。
そして初任務ではX-MENとしての即席の正義感から、先走ってラッセルを虐待していたという理事長とスタッフの男を撃ち殺そうとしました。その行為を見かねた部隊に抑えられ、結果として犯罪者として収容されてしまうというのがなんとも皮肉です。コロッサスも「裁くのはお前じゃない」と咎めていました。
そしていざフィーリングファクターを封じられ、死ぬことが間近に迫った際には、すんなりと諦観しラッセルに冷たい態度をとっていました。
序盤におけるウェイドの一連の行動を見ると、結局彼は自己本位的にしか動いていないということが言えます。ヴァネッサの元へ行きたいけど不死故に死ねない。人を救う活動に参加し、少年を虐待していた外道を殺してが解決すると思っていたが、あえなく失敗。そうして成り行きで死ねることになったのなら、それでいい。
サノ…ケーブルとのファーストコンタクト後、ヴァネッサからの言葉をラッセルに結び付け、彼を救うことを決意してからも、独善的な思考自体は変わってはいません。家族だと言っていたXフォースの面々が死んでもさほどショックを受けていませんでした。あくまで雇用契約上の関係だからというのもあるでしょうが、非情さが窺えます。
護送車から解放されたラッセルが、ウェイドのもとへ帰ってこないで、ジャガーノートと結託して復讐に走り出すのも無理はないでしょう。ウェイドと初めて会った時、理事長たちが撃たれる様を目にして彼の中で復讐殺人が肯定された上、そのウェイドが状況さえ変われば自分を他人扱いするという面を見てしまっていたのです。
だからこそ、ウェイドが不死性を投げ捨ててまで自分を救おうとする姿は、初対面の時とは対照的に映った事でしょう。彼はラッセルの復讐を止めるよう尽力し、他人の命を奪うのではなく自らの命を差し出すという真逆の行動に出たことで、ラッセルを説得しました。能力を制御する装置を使って、後ろ盾がないことを証明するシーンは、銃を投げ棄てて手を取り合おうとする行為のようです。
ヒーロー映画でありながら、主人公が悪の親玉や敵対者を殺して事態を収拾させるのではなく、自らの命を犠牲にすることで改心を呼び起こすというプロットは、腕力で解決するよりもはるかにヒロイックです。しかもワルを殺すことを厭わないデッドプールでそれをやってのけたという事実が、余計に新鮮さを増しています。
家族を救うためにタイムスリップしてまで幼き少年を殺そうとしたケーブルが、ウェイドの自己犠牲的な行動を引き起こし、更には元の時代に帰るチャンスを投げ棄ててまで彼の命を救おうとする姿も、「利己から利他へ」のパラダイムシフトを表しています。
「デッドプール2」はある日突然生きる理由が消えたとしても、それは行い次第でいくらでも作り出せるという物語になっているのです。ウェイド、ケーブルは恋人・家族を殺されてしまったけれど、相手のためを想っての行動を起こし、仲間になりました。
終盤の流れは極めて道徳的でした。人が容赦なく死に、下ネタが吐かれ、大人の事情をあざ笑うような映画だというのに、です。
最後には、他人を救うことの重要性に気づいたウェイドが時を巻き戻して、ヴァネッサやピーターを生き返らせていました。もっともこれは凄まじい反則技であり、感動をぶち壊すような真似です。
しかし、デッドプールだから許されるという特権をフル活用しているために、ただちに前向きな笑いや驚きに転化されます。その後に続く、黒歴史修正シーンの衝撃と相俟って、高度なギャグにまで昇華されています。
ブラックなジョークやグロテスクな描写に包まれた道徳的なメッセージは、老若男女問わず、ワールドワイドに通用すると思いました。
もっともっと過激なギャグとアクションが欲しい
絵的な面白みが薄い会話シーンは、見ている間気になりました。アイスボックスのシーンでは、デッドプールが能力を封じられ、背景も薄暗かったため、停滞気味な雰囲気が退屈さを増していたように感じます。
ジャガーノートの存在を匂わせ、能力制御装置が登場し、ウェイドとラッセルの決別が起こるなど、のちに重要になる布石が打たれてはいるものの、このシーン自体に工夫が見られませんでした。新入りを虐めてくる囚人に代表されるような刑務所描写には、ほかの映画でいくらでも目にするような既視感を覚えます。
サノs…ケーブルがアイスボックスに襲撃してきた時はややマンネリが終わりを告げるものの、基本的には銃を撃ったり殴ったりという平凡なアクションが続いていたように思います。
また笑いに関しても、クスっとしたり、ニヤついたりする程度のものが多かったです。要は理性的な範囲で笑っていただけという感じで、意外と知的なジョークに留まっているような気がしました。せっかくR15指定で表現の幅も大きいはずなので、下ネタや残酷表現をより過激に使って、腹を抱えて笑いたくなるような突き抜けた笑いを続編では期待したいです。
アクション面でも、ドミノのラッキー描写は非常に面白かった一方で、他の登場人物が披露するアクションはだいたいどこかで観たようなものばかりに感じました。それこそケーブルはターミネーター的なルックと攻撃手段ですし、デッドプールが日本刀で銃弾を弾いたり、人体を切断するような運用も、刀が出てくる映画では定番ですよね。
アイスボックスでやっていた、ウェイドが折れた腕で相手の首を絞めるといった独自色の強いアクションをもっと見てみたいと思いました。
まとめ
個人的には機械人間サノスを演じたジョシュ・ブローリンが今回のMVPでした。軽々とジョークを飛ばすデッドプールの横に並べると頑健で屈強そうな存在感がより引き立っており、見栄えが良いです。
機械化する体については今回触れられていなかったし、まだ掘り下げられる余地を残しているので、次回では最初からデップーのバディとして大暴れしてほしいです。
(C)Marvel Studios 2018
…え?
今回は前作に比べても誰もがとっつきやすいテーマを、前作以上に悪趣味なグロやマニアックなネタで包んでおり、素直に続編としてのパワーアップを図ったという印象を受けました。
ただ、真面目なテーマに引っ張られて、不真面目な部分がやはりどこか大人しい気がしてきます。最も冒険的なジョークが最後の最後に挿し込まれたライアン・レイノルズの黒歴史ネタであり、映画本編が霞むほどでした。
他作品の引用もやや多く、元ネタを知らないと味わいつくせないというデメリットも出てきているかなというのも懸念点です。
「3」があるならば、全編を更に過激なジョークで埋め尽くしてほしいと思いました。