苦節の甲斐あり、悟飯とピッコロの覚醒『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』レビュー【ネタバレ】

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アイキャッチ画像: (C)バード・スタジオ/集英社 (C)「2022ドラゴンボール超」製作委員会

どうも、ワタリ(@watarildey)です。

今回は『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』のレビュー。監督は児玉徹郎、脚本・キャラクターデザインを原作『ドラゴンボール』の作者である鳥山明。連載終了から26年もの時間が経っても新作が作られる超人気作なので、今更前置きは不要だろう。さっそく感想を書いていく。

 

孫悟飯とピッコロ

事前情報の時点でフィーチャーされることが発表されていた孫悟飯とピッコロ。悟飯は原作漫画においては単体では最強の潜在能力を持ちながらも、セル編のクライマックスで大活躍を遂げて以降、なかなかその強さを存分に発揮する機会に恵まれず、最終章のブウ編では父・孫悟空にフィニッシュを譲り、そのまま作品が完結。以後、2013年の『ドラゴンボールZ 神と神』を皮切りにシリーズ展開が再開し、TVシリーズ『ドラゴンボール超』が始動して以降もけっきょく最強の実力に相応しい活躍の機会がないまま、しかしファンからはそれを望まれるというもどかしい立ち位置にあった。

また、彼の師匠的存在として、なおかつ悟空達の中でも冷静沈着なブレーン役として、これまた人気のキャラクター・ピッコロについても、セル編の途中からは戦闘力のインフレについていけなくなり、戦闘での活躍が見られることはなくなっていったという経緯がある。

双方とも人気漫画『ドラゴンボール』の全盛期を支えた功労者でありながら、ついには『ドラゴンボール超』は最終回を迎える。そんな折、劇場版『ドラゴンボール超 ブロリー』を経て、ようやく彼らを主役にした『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』が世に出ると聞き、原作漫画を今年に読破した自分でさえも楽しみで仕方がなかった。

 

▲ドラゴンボールのベストシーンで、主人公の悟空を差し置いてここを挙げる人も多いのではないだろうか。

出典:鳥山明『DRAGON BALL』34巻

 

3DCGへの移行

前作『ブロリー』がこれまでに見てきた手描きのアニメーションの中でも指折りの迫力を誇る作品だっただけに、事前に告知されていた3DCGへの移行は不安も当然あった。

▼前作『ブロリー』の当時の感想。

嬉しいことに、それは杞憂に終わった。もちろん、手描きのアニメ特有の、アニメーター単位で滲み出る線の個性や表情の揺らぎのようなものが消失したことによって均質化してしまった側面は否めない。

他方で、3DCGモデルを採用しての制作方式によって、クオリティのブレや作風のばらつきといった手書き故の短所もまた抑えが効いていて、どのシーンを切り取っても鳥山明がデザインした個性的なキャラクターの姿が保たれていることの恩恵はとてつもなく大きい。『ドラゴンボール』は言わずと知れた激しいバトルシーンが目玉の作品であるが、特徴的なピッコロの緑色で大柄な体躯はコマを跨いでも安定している。

どうもその3DCGモデルも単にポーズを取らせて1コマ1コマ作っていくというだけではないらしく、パンフレットを読んでみると、従来の手描きのアニメ同様に作画監督によってポージングに対する指示や修正が入っていたり、質感がのっぺりとしないように撮影で照明や影を仕上げていたり、服の皺を書き込んでいたりしているらしい。また、コマ数を敢えて落とすことで生々しくなりすぎないような制御をかけているカットも見られ、漫画っぽいエフェクトやアクションが浮かないようになっている。そうした甲斐あってか、所謂「不気味の谷」のような現象は全く見られない。

今回、いろいろなキャラクターが出てくるが、それぞれ芝居も細かくつけられており、例えば3歳児のパンはおぼつかない体の動きから、ちょっと目を離すと勝手なことをする子供っぽさまで書き込まれていて、とても一度の鑑賞では拾いきれないぐらいの情報がキャラクターごとに詰め込まれている。予告映像に映っている雨のシーンでは、雨一粒一粒が体に当たって飛散する、あるいはスローモーションでは弾ける前の粒が浮かび上がるといった、手書きのアニメーションではなかなかに困難な3Dアニメ特有の表現も見ることが出来た。個人的には、ピッコロが魔貫光殺砲を撃つ前に一瞬そのシルエット全体が逆光のように黒く飛ぶ瞬間は、3Dアニメながらコミックのきめ絵のような外連味があってお気に入りのカット。

カメラも存分に動かしながらバトルシーンが描画されていること自体にも感動を覚えてしまうほどの出来栄えだった。鳥山明の原作漫画から始まり、アニメ化によって更に人気を博してきた歴史を持つコンテンツでありながら、映画作品で新しい試みに出て、実際ここまで完成されているというのは、驚きだ。

(C)バード・スタジオ/集英社 (C)「2022ドラゴンボール超」製作委員会

 

苦節の甲斐あった、悟飯とピッコロの大立ち回り

実質的に今作の主人公ピッコロ

ピッコロは、元大魔王にして、その遺児にして、元神様にして、更には実はナメック星人という異星人で……というてんこ盛りな経歴の持ち主である。本人も今作でガンマ2号に対してその複雑さに言及するのだが、そんな彼が今作ではかつて敵対していた孫悟空の息子・孫悟飯とその妻・ビーデルの間に生まれた娘・パンの世話をしている姿が描かれる。初登場時から考えると飛躍もいい所だが、こういう緩さって『ドラゴンボール』のコンテンツの回りまわっての魅力であると再認識させられる。

だいたいが『ドラゴンボール』のキャラというのは、初登場の時点でオチから逆算して明確に役割を定めてたなんてことはおそらく全くなく、「連載を続けているうちに結果的にそうなった」の産物でしかなさそうなのだが、かえってそれが紆余曲折からくる感慨と愛着に繋がってしまうので、ズルいなあと思った。かつては尖っていたピッコロが子守りをしているのを見ていると、人生の数奇な巡り合わせの魔法に触れたような気になるのだ。

今回面白いなと思ったのは、地球の危機を察知したピッコロが娘のパンと共謀して悟飯に発破をかけ、潜在能力を引き出す役回りだ。

原作セル編において、悟空が悟飯の潜在能力を引き出すべく、その時点では自信すら敵わない強敵セルと悟飯を一対一で戦わせるエピソードは、しばしば悟空のダメ親っぷりを揶揄する文脈で引き合いに出されがちである。側で見ていたピッコロは悟飯の争いを好まない穏やかな気性に寄り添う形で悟空を諌める。

出典:鳥山明『DRAGON BALL』34巻

一見すると、確かに揶揄される通りの構図に見えるのかもしれないが、悟空とて何の企みもなしにセルの前に息子を突き出した訳でもないのだ。非情にも思える行動の根底には、悟空自身の悟飯の素質への信頼があった。それを批判するピッコロに思いやりがなかった訳ではないのだろうが、悟飯の安全を重んじるばかりに、悟空とは真逆に悟飯の素質に対しては懐疑的な面があったことは否めないだろう。ピッコロは、ブウ編においても老界王神によって潜在能力を引き出された悟飯の到来を見てまず第一声に悟空だと勘違いしてもいた。

そうした経緯を踏まえると、今回ピッコロが悟空達の不在に際して、悟飯の潜在能力を引き出すように立ち回ったのは、変化のようにも思えてくる。セル編、ブウ編と幾度とない危機に際して悟空を上回る強さを見てきたピッコロが今度は保護する態度を前に出すのではなく、むしろ頼りの戦力と見做しているのだ。

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(C)バード・スタジオ/集英社 (C)「2022ドラゴンボール超」製作委員会

 

更なる覚醒を遂げた悟飯

一方で、ピッコロやパンの企みにも気づかず、まんまと戦場に誘い出される悟飯。この筋書きも面白いと思う。「敵組織に攫われた娘を助けに行く父親」なんて手垢のついた筋書きを、わざわざ今やるのかと見る前は構えてしまっていた。だが、蓋を開けてみれば、ピッコロとパンが軽いノリで仕掛けた悪戯である。パンの動機としては、研究に没頭して構ってくれない父親に構ってもらいたいという子どもらしい欲求と、本来は誰よりも秀でた潜在能力を持ちながらも目にする機会がなかったことによる好奇心があり、ピッコロは前述したように戦力としての期待がある。『ブロリー』は、ベジータ王への復讐に端を発した事件を扱っていた都合上、シリアス寄りな導入だったものの、『スーパーヒーロー』は原作にも見られるユーモアが適度にシナリオに混ぜ込まれていて、むしろこっちの方に鳥山明の脚本の旨みを感じた。

鳥山明っぽさと言えば、やたらと段取りめいたシークエンスが今回出てくるのも、そうだ。冒頭のレッドリボン軍残党のマゼンタとカーマインによるやり取りから始まり、車に乗ってドクターヘドに計画を吹き込むくだりは、言ってしまえば長ったらしい舞台説明でしかない。中盤のドラゴンボールでピッコロの潜在能力を引き出す部分にしても、ものすごく作業的でそれ自体に見せ場たりうる真剣さはないのだが、ユーモラスなキャラの掛け合いやガジェット描写なんかで娯楽を確保している。それにしても長ったらしさは否めないのだが、欠点にも愛嬌があるのが、鳥山マジックの再現という感じがする。上空からピッコロが飛び降りる開放的なカットあたりに、ぶっちゃけ道中くだらないギャグだらけだった初期のドラゴンボール集めの旅の最後、なぜだか胸のすっとするような別れの大ゴマを思い出した。

出典:鳥山明『DRAGON BALL』2巻

 

今回、悟空とベジータが登場するシーンも同様に、ぶっちゃけて言えば彼らが地球に生けないことを説明するためのシーンでしかないのだが、それでも悟空とベジータを出すからには最低限バトルを見せるというノルマと事情を感じさせる。

そうした諸々の舞台仕立てを終え、娘を助けに敵陣に乗り込む悟飯というところで、そこからはずっと戦いっぱなしという構成になっているが、やはり3DCGでもアクションシーンの動きは迫力があり、終始見応えもあった。雨粒の形状で動きの速度を瞬間的に理解させるスロー演出や、天候を書き換えてからのアルティメット悟飯の動きのキレと重い一撃の効果音、ピッコロの共闘に際して戦闘の最中にも師弟らしいやり取り、それからピッコロのサプライズと言うべき覚醒……と楽しいシーンが目まぐるしく連続して、あっという間に勝負が決してしまう時間感覚だった。今作で破壊の限りを尽くされるレッドリボン軍基地は、深い堀へと極太のパイプ群が伸び、崖の間に架かった線路を列車が通っていくという大胆な空間デザインは見るからに楽しいし、そこをピッコロとガンマ2号が飛び回っていく映像はいかにもテーマパークのアトラクションに乗っているようだった。その点で、3DCGはキャラクターのみならず背景においても効果的に機能していると強く感じた。

敵役ガンマ1号&2号がマントを靡かせながら光線銃を交えて戦う姿がまさしくレトロなヒーローになっているのだが、『ドラゴンボール』としては新鮮味のある造形だ。ピッコロ相手の初めての戦闘シーンではアメコミ風な擬音に背景という奇抜な掴みがあったので、ああいうのはもっと見てみたかった気もする。あくまでヒーローをモデルに作られた人造人間ということもあってか、2号はポージングを取りたがるし、バトルスタイルは、とりわけ『ブロリー』と比較すれば、野蛮さや粗野さがなくいかにもヒーローっぽい。子供を虐げることに関して即座に声を上げるなど、ああいう描写で憎めなさを演出されると、ちょろいかもしれないが落ちてしまうのであった。最終的に2号が退場し、今後登場するのは1号とヘドのみというのは実に惜しい。

一方で、今回事前に情報が伏せられていたセルマックス。ボディの一部が赤く、巨大化している等のアレンジが加わっているものの、あからさまに集団で倒すべき敵役として設定されているためか、台詞は一言もなく、ずっと叫んで暴れるという割り切りぶり。原作では最終形態以降の、圧倒的な強さを誇りながら、そのスマートな見た目とわざわざ悟空達に猶予を与えて「セルゲーム」なる催しを行うなどの余裕を示す造形に人気が集まっていただけに、セルマックスにはそうした魅力を感じることができなかった点は残念ではあったものの、今回はスーパーヒーローたるガンマ1号2号及び悟飯たちに花を持たせることを考えればやむなしか。鳥山明は人造人間編のキャラの中でもセル第二形態が一番好きだったにも関わらず存分に暴れることなく最終形態に変わってしまったという心残りがあるようなので、それを考えればリベンジとも言えるのかもしれない。

ただ、悟飯がセルを前にして更なる覚醒を呼び起こされるという展開は、やはり原作を読んでセル編での彼の活躍に手に汗握った身としては、熱くならざるを得ないところがあった。しかも、フィニッシュ技がまさかの魔貫光殺砲。しかも、セルを捕えて足止めする役回りはピッコロ。ラディッツが地球にやってきた際に悟空が身を挺して食い止めたラディッツをピッコロが魔貫光殺砲でもろとも殺害するシーンと重なり、奇妙な巡り合わせの末に弟子の悟飯が師匠の技で地球を救うためのトドメを刺す瞬間に、『ドラゴンボール』の歴史の積み重ねと、積年活躍の機会がなかった悟飯とピッコロの晴れの姿を目の当たりして、密かに喝采していた。

(C)バード・スタジオ/集英社 (C)「2022ドラゴンボール超」製作委員会

 

悟飯にとっての悟空のことも忘れないでいてほしい

それにしても、悟飯のあの更なる覚醒は一体何なのか、という疑問は残るのだが、悟空とベジータを上回る能力を引き出した彼の更なる活躍を見たいと思うのが心情だ。せっかく参戦したのに、フュージョン失敗パターンで終わってしまったゴテンクスのリベンジと併せて、早く次の活躍を見せてほしい。

かつては悟飯に主役を変えようとしたにも関わらず、結局作品の顔として長年悟空とベジータを主軸に話を展開してきたものの、今回の映画で『ドラゴンボール』は決してそれだけの作品でないことを改めて実感させられた。

ピッコロは悟飯にとって大事な師であり家族であるというのは勿論だが、個人的には悟飯は悟空も父として同じくらい尊敬しているはずなので、今度は肩を並べて戦う姿も見たいところだ。タイトルに「超(スーパー)」が既についていることを忘れて「スーパーヒーロー」と名付けたという鳥山明先生には、是非とも忘れずにお願いしたい。

 

出典:鳥山明『DRAGON BALL』21、41巻

 

関連リンク:ドラゴンボールの感想

▼手書きにおける最高峰のバトルアクション作画が見所、原作未読状態での前作『ブロリー』感想。

 

▼その『ブロリー』の4DX感想。今回の『スーパーヒーロー』も4DXでリピート予定。

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