こんにちは、映画「ポケモン」やボンババボンで川栄李奈の声がいいと思っていたら「ペンギン・ハイウェイ」の蒼井優の声にも惚れたワタリ(@wataridley)です。
今回は「バーフバリ 王の凱旋」の国際版の魅力を語ろうと思います。
完全版との違いを3つピックアップし、当該のシーンについての解説と自分の見解を書いています。そのため作中の具体的なシーンに触れており、ネタバレを含んでいます。
とはいえ、「バーフバリ」は先を知ったからと言って面白さが削がれるといったこともあまりないという妙な作品でもあります。
未見の方は、事前情報に敏感ならば避け、それでもいいという方のみ読んでみてください。
はじめに
一大スペクタクル映画叙事詩「バーフバリ 王の凱旋」は昨年12月に公開され、日本ではメジャーと言い難いインド映画にして驚異的なロングランを達成。
好評を受けて配給会社のツインは、その半年後の6月1日に<完全版>と題したバージョンを公開しました。
「完全版」という名前が少々大げさではあるのですが、要はインド本国で公開されたオリジナル版で、これが上映時間167分という長尺なのです。
インド映画は比較的上映時間が長めの傾向があります。日本やアメリカでは映画はせいぜい2時間半に収める傾向が見られ、アニメなど低年齢層をターゲットに入れているものたと2時間を切るのがほとんどです。
そこへきて167分となると、インド映画という色眼鏡をかけなくとも、これで見るのを控えてしまう人も出てくるであろう長さです。
そういった事情もあり、海外では国際版として26分を短縮したバージョンが公開されています。日本も昨年12月にこちらがまず最初に公開されました。
完全版が公開となって以降、スタンダードに見るべきは完全版という風潮も強まってきたと思うのですが、自分は2つを比較して見ると国際版ならではな強みも十分にあると思いました。
これからその国際版の3つの強みを紹介していきます。
①時間がコンパクト
時間がコンパクトにまとまっている国際版は、気軽に見れるという一点で間違いなく完全版を上回っています。
141分ともなると2時間半に収まっており、普通の映画を見る気分で臨めるわけですね。完全版が167分と映画を見る習慣を持つ人でも躊躇する長さに対して、この軽さは手に取り易いです。
「七人の侍」がいくら好きでも200分超ともなると、休日にしっかり時間を取らないといけないわけで、なかなか気も遠のいてしまうものです。
時間が短くなったことに加えて、ただ単に金曜ロードショーあたりのテレビ放送でカットしたようなぶつ切りが一切ないというのも素晴らしいです。
26分切ったとなると、とあるシークエンスをまるごと削除というのが頻発するはずです。しかし、バーフバリはシーンの導入や次のシーンへのクッションといった細々とした部分をカットして、時間を調整しています。その結果として、物語の大枠は保たれたまま、コンパクトにまとめ上げられています。
例えば、冒頭火鉢を頭上に乗せて遥々歩み続けるシヴァガミを象が襲いかかってきて、あわや大惨事というパート。
完全版では、まず一見正常そうに歩くシヴァガミを映し、それを見た民衆が一度は嬉々とした様子を見せるも、彼女の擦り切れた足に気づいて、讃えるという流れがあります。
国際版では編集によってこうした一連の描写を短縮し、最初からシヴァガミの擦り切れた足が映り込み、それを見て讃える民衆、そして象が暴れ出す音、という具合に変わっています。間を置かずに象が暴れだすようになっており、カットしたことによって、テンポよく次の話に移行しているのです。
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バーフバリの兄バラーラデーヴァが小国の王女デーヴァセーナに惚れ、母のシヴァガミに娶らせるよう仕向けるくだりも国際版は非常にさっぱりとしています。
バラーラデーヴァが会合に出席せず、シヴァガミを心配させ、部下に彼の恋煩いを唆させるというジワジワとした策略を省き、デーヴァセーナを嫁にもらうと決意した次の瞬間にはシヴァガミに直訴しています。
このように物語のニュアンスを変えずに、次に繋がる準備運動や予備動作を巧妙に編集で削っており、結果として見易いし違和感もないという作りになっています。
もちろん、大幅にカットされた結果として、全く存在しないやり取りや台詞というものが生じたのもまた事実。
王族に仕える奴隷カッタッパのドラマの重厚感と小心者のくせして威張ってしまうクマラ・ヴァルマの滑稽さは完全版の方が上なのは間違いありません。
先のシーンで言えばバラーラデーヴァが周到に母を欺いていく邪な印象は、カットされたことにより薄れました。
ただ、今作の物語というのは、明らかに主人公バーフバリに焦点を当てて展開しています。それ以外のキャラクターの描写をカットすることで、さらにバーフバリの描写や見せ場のアクションに集中させることができるという構造になっており、主たるドラマが希薄化したとまではいえません。
バーフバリというカリスマ、そして怒涛のアクションという柱は強固に打ち立てられたままなのです。
このように、国際版は尺が短くなったことで敷居が低まり、見所までの到達速度が高まったという確かな効果があります。完全版と国際版の間にある尺の差はそのまま物語への入り込みやすさに繋がっているのです。
もちろん、完全版にしかないシーンも見ごたえ十分。国際版で虜になったら次は完全版、という具合に楽しめます。
②バーフバリ、カッタッパを抱えて空中ダイブ!
実はこの国際版、完全版には存在しないシーンも一部存在します。
しかも、これが前後の印象をガラリと変えてしまうほど力の入ったシーンなのです。
1つ目がアマレンドラ・バーフバリが、カッタッパ処刑の一報を聞いて駆けつけるも、罠にはめられてしまうシークエンスのことです。
降り注ぐ矢の雨からカッタッパを庇い、負傷するアマレンドラ。そして、襲いくる敵から逃げ、カッタッパの手足に撒かれた拘束具を解こうとする。完全版においては、このようなシーンでした。
片や国際版におけるこのシーンは完全版よりも圧倒的にドラマティックな画が広がります。
アマレンドラは身を挺してカッタッパを守った後、敵の大群相手に善戦。敵が更なる矢を放ったその時、カッタッパを背に抱えたまま崖から地面を背にしたダイブを行う。直前に胸を貫かれた人間とは思えないアクションに目を見張りました。
見捨ててしまえば簡単に逃げ果せる状況の中で、それでもカッタッパを抱えて高所から飛び降りるその器量が、大胆に表現されています。胸が抉られると同時に惚れ惚れとしました。
その後カッタッパが地面に衝突しないように、宙でクルリと入れ替わり、自らがクッションになり着地。放っておけば死に瀕するのは自らの方だというのに奴隷のカッタッパを優先する彼の仁徳が滲みます。
頑強で逞しい王だった彼が、弱々しく倒れる姿を目に留め、苦痛で顔を歪めるカッタッパの表情は、胸にきます。
こんなにも見応えのあるシーンが、完全版ではバッサリと無いのです。国際版のこのシーンは、王の中の王アマレンドラ・バーフバリが死に向かう寂寥感を描写し、見る者とカッタッパの胸中がリンクしていきます。
どうして完全版にないんだと心の中で叫びたくなるぐらいの濃密なシーンでした。画像は貼りませんでしたが、ぜひとも映像で両者の違いを比べてみてほしいです。
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③バラーラデーヴァの戦車でヒャッハー!
もうひとつ個人的に叫びたいのが、バラーラデーヴァの戦車の魅力が完全版では薄れているということですね。
王国軍との最終決戦、反乱軍が少ない物資と兵力を工夫とマヘンドラの力で補い、健闘する中、その殺戮マシーンは唐突に登場します。
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目の前に立ちはだかる者すべてを一掃し、問答無用で突き進む殺意に満ちた戦車。
デザインも攻撃手段もインパクト抜群。
正面下部からは大量の矢を射出することも可能で、マッドマックスの世界に紛れ込んだとしても十分通用する破壊力。
何より自分以外をみな見下している唯我独尊のバラーラデーヴァのキャラクター性をこれでもかと示すアイテムになっているのが素晴らしい。
味方と敵が混ぜこぜで斬り合っている戦場のど真ん中をこれに乗って躊躇なく突き進めるのはバラーラデーヴァただ1人でしょう。というか、そもそもこれに乗ろうという発想が起こらない。
アクション映画の側面をもつ今作にとって説明的な口調でキャラの特徴をベラベラ喋るよりも、圧倒的な画力によるアピールの方が観客に対しては有効なのです。
と、戦車の魅力を書きましたが、とあるカットを完全版は欠いているため、この極悪兵器も国際版の方が魅力的に映っています。
というのも、完全版ではせっかく3枚も備え付けられている大袈裟な回転式スライサーがほぼ一度しか使われていません。
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下車する前にも1人の腹を掠めて、画面端でその人が倒れるところが映っているのですが、細かすぎて気持ち良さは感じられません。
戦車が登場してすぐ刃で一気に3人をあの世送りにする画はゾクゾクしますが、バラーラデーヴァの眼前には依然大量の敵と味方(彼には味方すら邪魔者)が立ち塞がっていました。
国際版では鮮烈に脳に焼きつく場面が追加されています。それがこちら。
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完全版と異なり、敵味方を撥ねながらお構いなしに進んでいくバラーラデーヴァの暴君ぶりが見事に画面に映りこんでいます。邪魔な障害物もバラーラデーヴァの戦車にかかれば、次の瞬間には肉塊となって宙を舞うのです。無双系のゲームを傍観する感覚に近いものがありますね。
あまりくどくど言っても仕方がないので、是非とも国際版と完全版を見比べてその気持ちよさの違いを実感していただきたいです。
まとめ: 国際版にも価値はある!
というわけで、今作はショートバージョンの国際版を手に取ってみて、それから引き付けられるものがあれば完全版に、という順序が入りこみやすいです。
最初から完全版を出すのではなく、まずは国際版を海外で公開した意図も十分にわかりました。コンパクトさ故にハードルが低まっています。
更には国際版にしかない限定カットもあるため、完全版が日本でもリリースされた今となっても、十分に価値があるものだと思います。
バーフバリ2部作は完結しましたが、このように日本でバージョン違いが出たり、前日譚の製作がNetflixで決まったりと、まだまだ勢いは続いていますので、これからも期待したいです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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