こんにちは、初めて『FF7』をプレイした時にニブルヘイムで彷徨い続けた記憶が残るワタリ(@wataridley)です。
先日『FINAL FANTASY VII REMAKE』をクリアましたので、その率直な感想を書いていきます。(以降、『FINAL FANTASY』は『FF』と略し、『FINAL FANTASY VII』などは『FF7』のように表記する)
ストーリークリア時点でのプレイ時間は約35時間程度で、サブクエストもあらかた目につくものはこなしました。
ストーリーの核心に迫るネタバレは控えますが、基本的なあらすじや設定、ゲームシステムの類に関しては触れています。
目次
プレイ前、『FF7R』に抱いていた複雑な期待感
『FF7』と言えば、未だにJRPGの傑作として語られ続けている1作。1997年にプレイステーションで発売され、国内売上は400万本、世界売上も累計1035万本という驚異的なセールスを達成。これは、現在に至るまで『FF』シリーズの売上最高記録だ。
同作が及ぼした影響も大きく、開発元のスクウェア・エニックスは、『COMPILATIOPN of FINAL FANTASY VII』と題したプロジェクトを発表。原則として『FF』は一作完結の物語で各ナンバリング同士が繋がりを持たないシリーズであったにも関わらず、『FF10』『FF10−2』の流れを受けて、続々と関連作品が製作されてきた。
『FF7』で対立した組織“タークス”を主人公にした『ビフォアクライシス』、本編後のクラウド達の闘いを描いた『アドベントチルドレン』、仲間の1人であるヴィンセントを主役とした『ダージュオブケルベロス』、本編よりも過去の出来事を描いた『クライシスコア』など、いずれも舞台と登場人物を本編と共有している。終わったはずの物語が尚も続けられているという事実自体が、この『FF7』の強固な人気ぶりの証人とも言えるだろう。
話題は尽きることなく、昨今ではあの『大乱闘スマッシュブラザーズ』にも数多く存在する『FF』シリーズからクラウドが代表として参戦。『FF』自体がゲーム界において大手のフランチャイズシリーズであることは広く知れ渡っているが、『FF7』は特に強大な存在感を放ってきたのだ。
オリジナルが発売されてから18年経った2015年のE3にて、突如『FF7R』の製作が発表。大人気シリーズが誇る傑作のリメイクとあって、多くのゲームファンに驚きを持って受け止められていた記憶がある。色々と製作に時間がかかっており、一時期はかの『FF15(元・ヴェルサス13)』のように発売が危ぶまれる事態になっていたが、無事2020年の4月10日に発売されることになった。
このあたりの個人的な所感を述べると、話題作だけあって期待は当然、しかし同時に不安も付き纏っていた。正直なところ、あの傑作をリメイクするという時点で、ファンが設ける期待のハードルは非常に高い訳で、それを飛び越えることができるのだろうか?と考えずにはいられなかった。生半可なものを出せば、オリジナルと比較されて猛烈な攻撃を受けることは容易に想像がつく。
情報が提示されていくにつれて、やはりその向上したグラフィクスと、オリジナルと大きく異なっている戦闘システム、またトレーラーに映り込む新キャラクター等を楽しみに思うのと同時に、元のテイストを損ねないだろうかという心配が少なからずあった。一見美麗になったグラフィックにしても、3〜4頭身だからこそできた当時のユーモア(主に女装クラウド)をどのように変換するかを考えてしまっていた。
しかしながら、最大の不安材料はやはり「FF7Rは分作である」という事前情報だ。今作は1作完結にならず、あくまで序章に過ぎないミッドガル編のみをリメイクした作品になるという前代未聞の手法である。公式に「ゲーム1作分のボリュームがある」とアナウンスされながらも、『キングダムハーツ3』や『FF15』で煮湯を飲まされた自分には、今作の基本的な完成度を疑わざるを得なかった。
そしてプレイし終えた今振り返ってみると、今作は紛れもない一級品ではあるが、あくまでパーツに過ぎないゲームだった。
ミッドガルの世界造形は立体感を増し、クラウドがそこで出会う人達との交流も密に描写されたことで、『FF7』の世界に引き込む目的で作られていたであろうミッドガル編の真髄はより強烈になってはいるが、そこに終始してしまっているのだ。
AAAタイトルに匹敵する魅力
古いゲームを新しく作り直すにあたって、その空気感を再現することはひとつの課題である。今作は、その課題を優に解決し、また新しい魅力を付与することに成功している。ハイクオリティのグラフィックで描画されるミッドガルと、そこで爽快に繰り広げられるバトルの魅力は、紛れもなくAAAタイトルのそれであった。
空を覆うプレートが存在感を放つ、魔晄都市ミッドガル
物語は『FF7』と同じく、元ソルジャークラス1stだというクラウドが、星の命である魔晄を汲み上げてエネルギーに換えている神羅カンパニーに対抗する反神羅勢力アバランチに加担し、壱番魔晄炉を爆破する作戦を始めるところからスタートする。
かつて遊んだプレイヤーは、この序盤の時点でグラフィックに大きく感嘆すること請け合いだ。当時のプレイヤーからもしばしば鉄アレイと揶揄されていたクラウドの腕は、今となっては引き締まった筋肉をつけた前腕と上腕そのものだ。
しばしば周囲の人物に言及されるその瞳は魔晄を帯びた緑に近い碧眼であり、カットシーンでクラウドの顔がアップで映る度に、エアリスがあるシーンで発する「綺麗」という台詞がその通りであると思わせられる。髪の毛もチョコボと形容される程の特徴的なシルエットを実現しつつ、1本1束がグラフィックで細やかに描写されており、ヘアスプレーやワックスを使って再現できそうな写実性も確保している。彼が背負っている武器・バスターソードも、きめ細かな傷や錆がついている。刃は周囲の照明を常に反射し、装着マテリアも視認することができるため、その存在感を目に留めているだけでも、序盤は惚れ惚れとすることだろう。
そんなクラウドが闊歩するフィールドも、CGイラストレーションの静止画で技術的な不足を賄っていた『FF7』から進歩し、全てが美麗な3Dグラフィックで表現される。存在感を放つ魔晄炉の塔や、列車のダイヤが描かれた電光掲示板、「立入禁止」の文字が刻まれた扉、施設内部のありとあらゆる操作盤などのオブジェが一切省略されることなく、現実の都会と殆ど変わらないのレベルの情報量がプレイヤーの視覚を埋め尽くす。
元の『FF7』をデフォルメされた人形と書き割りの背景で作られた人形劇に喩えるとするなら、対する『FF7R』は『スター・ウォーズ』や『ブレードランナー』といったサイエンス・フィクションを扱った実写作品に限りなく近い印象を受ける。かつては技術的な制約から免れ得ない省略・簡素化を受けていた細部が、今の技術力によってそのままの形で表現されているのだから。
加えて、今作はあくまでRPGであることの優位性も確保している。初っ端、発電施設を爆破した後に街を歩けば、崩壊した瓦礫から逃げ惑う人々の阿鼻叫喚や、家や家族と離れ離れになった人々の悲痛な声が四方八方から聞こえてくる。泣き崩れている人、それを励ます人、途方に暮れている人、騒動を見守る人など、NPCがその事件の悲劇性を具体的に示しているのだ。
正直、『FF7』において爆破事件を起こした後の街の騒ぎはここまで深刻には感じられなかった記憶がある。単純な色と形の組み合わせで出来たローポリのキャラクターがテキスト上泣き叫んだりしても、表情がわからない以上はその感情を読み取るにも限界があったし、こちらから話しかけないことには人々は喋らず、その数自体もさほど多くはなかった。
しかし、表現力が増したことで、街に溢れている人の数は多くなり、クラウドが話しかけずとも各々が声や表情を発するようになった。それによって、被害を受けた街の人々の反応が生々しく感じられるようになり、必ずしも正義とは言い難いアバランチの活動に自然と疑問を浮かべさせる。このようにして、街を歩くだけでストーリーへの没入感が高まる設計になっているのだ。
今作は『FF15』のようなオープンワールドではなく、チャプターごとに探索可能なマップを移動していく従来のRPGで主流だったリニアなマップ形式を採用している。この点は先祖返りしたという点で賛否が割れるかもしれないが、クラウドが行く先の景色はマップごとに明確な色分けがなされており、新たなマップに訪れる度に新鮮な気持ちを味わうことができる。
プレートの下、アバランチのアジト「セブンスヘブン」がある七番街スラムは、廃材を利用して建てられたと思しき家屋や店がぎっしりと立ち並び、舗装されていない道路にゴミが落ちていたり、よく見るとネズミが出没するなど、生活水準や衛生面が十分ではない様子が伝わってくる。かたや、プレートの上層に訪れると、現実の大都市と変わらぬ高層ビルやハイウェイが建設され、住宅街は煉瓦や石造りのしっかりとした家宅が並んでいる。スラム街の中でも活況を呈しているウォール・マーケット(六番街)は、人工的なネオンサインの看板と統一制のない屋台や店が密集した猥雑な空間が広がっており、胸踊る夜の街に仕上がっていた。
ストーリーに沿ってマップを歩いていると、ごく自然とその世界の事情や空気を味わることができるのだ。ミッドガルの街並みや住人達の会話などを作り込む上では、リソースを必要な場面にのみ投じられるリニアな形式は適切な選択だったと言えるだろう。
ゲームをプレイしていて何よりも感動したのが、スラムにいる時にカメラを上へ向ければ目につくプレートの存在感だ。カメラを動かすことができなかった『FF7』では、序盤のジェシーによる図解を用いた説明といった幾つかの台詞、一部のカットシーンでしかミッドガルの構造は伝わってこなかったが、『FF7R』ではプレイヤーはいつでもミッドガルの格差の象徴を見上げることができる。幾何学模様に鉄が組み合わさって出来た中央の主柱と、そこから円形に広がる巨大な鉄の傘。まず現実でお目にかかれない、異世界情緒溢れるにも程がある景色で圧倒された。
変化の予兆を見せるメインストーリーと人々の営みが活写されるサブクエスト
メインストーリーは『FF7』同様に壱番魔晄炉の爆破作戦からミッドガル脱出までを描いているが、いくつかの変更・追加があり、ボリュームアップが図られている。
特に目立ったところでは、アバランチの仲間であるジェシー、ビッグス、ウェッジとの会話は大幅に増量し、かつそれぞれ新たに個性付けがされている。中でも、アバランチの破壊工作において爆弾調達を担当していたジェシーは、しばしばクラウドに対して積極的なアプローチを仕掛けたり、軽い調子で周囲の空気を和ませたりするムードメーカーとしての一面が強調される一方で、爆発がもたらす被害についても自責の念と反省を示す奥深いキャラクターになっている。FF7で人気を集める女性キャラクターと言えばティファとエアリスの2強であるが、今作に限ればここにジェシーが加わった3強ではないだろうか。
原作にはいないキャラクターも多数新登場し、ミッドガルをより賑やかに彩ってくれる。ドン・コルネオが牛耳るウォール・マーケットでは特にそれが顕著。ある目的でコルネオの屋敷に潜入するにあたって多数の協力者や顔見知りがそこに関与してくることで、アンダーグラウンドな世界に奥行きが感じられる。個性的なサブキャラクターが増えたことで、ミッドガルの世界に住む人々が身近に感じられるが、それが回り回って「星の命を救う」というメインストーリーの目的に寄与し、物語に没入できるわけだ。
今ではすっかり当たり前のことになったが、キャラクターに声で息が吹き込まれたことの恩恵も大きい。テキストで読み進めていた『FF7』において、「興味ないね」に代表されるクラウドの冷淡な台詞回しは、プレイヤーにはより無機質に響きやすかったと思われるが、今作ではクラウドの機微が櫻井孝宏の繊細なボイスアクトによって表現される。
あくまで契約上の関係としてバレット達とビジネスライクに言葉を交わす際の物言いはその場の空気を引き締め上げる鋭さを持っているが、ティファに対しては柔和な音質となって響く違いが見て取れる。耳に入り込んでくる声からクラウドの内面が想像できるようになっており、微妙な変化を捉えたキャラクターの表情と合わせて、映像作品としての見応えもある。
メインストーリーでは、上記のような描写の増量と強化に加えて、全く新しいシーンやイベントの追加も散見される。主にマップ上の探索領域の増加に伴うミニゲームライクなギミック追加や、前述したジェシー等のキャラクターを掘り下げるためのイベントの挿入が見られる。それぞれ原作にあったイベントの合間に差し込まれる形で追加されており、元のストーリーの骨子は損ねないように気を遣われている印象を受けた。ただし、一部は賛否を呼びそうな箇所はあり、詳しくは後述する。
また、メインストーリーに限らず、要所要所でスラム街に住む人々の悩み事をクラウドが「なんでも屋」として解決していく機会が用意されている。ある依頼はスラム街の貧しさによるもの、またある依頼は神羅カンパニーが起こした事件に因むもの、またある依頼はその人の生業の手伝いになるものとなっており、サブクエストを通じて住人と交流ができ、メインストーリーの目的を補強する役目を果たしている。
全体数はメインストーリーのついでに無理なくコンプリートできてしまう程度で、いずれのクエストも「定点地点に行ってモンスターを狩る」という目的になりがちなのが惜しいところだが、一つのクエストがまた別のクエストに繋がっていく場面もあり、それを通じてスラム街に住む人々の人間関係や社会が自然と理解できるようになっているため、かつて『クライシスコア』にあったような淡々と受注してモンスターを狩るようなマンネリズムに満ちた作業にはなっていない。
「新旧折衷」の戦闘システム
そして、今作の遊びの心臓部たる戦闘システムを批評していく。
戦闘システムは今となっては懐かしいゲージが貯まった後に各キャラの行動を選択する「ATB(アクティブ・タイム・バトル)システム」をベースに、そこに『キングダムハーツ』シリーズに近いアクション要素を取り入れ、爽快感と戦略性を兼ね備えた内容に変化している。
基本的にはL3スティック入力で敵との間合いを管理し、R3スティックでカメラを動かして攻撃対象を定める。そして、攻撃範囲に近づいて□ボタンをポチポチと連打し、通常攻撃を叩き込む。この一連の動作がアクション部分の攻めの基本である。反対に敵からくる攻撃に対しては、R1ボタンを押している最中に維持するガード態勢でダメージは受けつつその量を減らすか、タイミングはシビアだが×ボタンで完全に回避することができる。
一方、「ATBシステム」は、従来の『FF』シリーズ同様に時間経過でゲージが貯まるのに加えて、上記の通常攻撃をヒットさせるとゲージのチャージスピードが加速する。ゲージが貯まれば、そのキャラクター固有の攻撃技・補助技「アビリティ」、お馴染みの「魔法」と「アイテム」を選択でき、戦況をより優位に進められるようになる。そしてこの「ATBゲージ」を消費する行動の選択中は、周囲がスーパースロー状態になるため、ここだけはかつての『FF』と同じように思考が可能だ。この点で、スピード感と戦略性という一見相反する要素をうまく両立している。
また、『FF13』に存在していた、敵へ一定のダメージ蓄積を与えることで更なる大ダメージを与えられる「チェーン」が「バースト」として実質的に引き継がれている。「バーストゲージ」が貯まると、敵は解除されるまで無防備+ダメージ量UPとなる。
「ATBゲージ」が自動で貯まっていくためチマチマとしたヒットアンドアウェイの戦法も取れはするものの、上記の通りゲームとしては敵にラッシュを叩き込んでガンガン派手な攻撃を連発することを推奨しているようである。実際火花がひっきりなしに散りまくる戦闘は見た目が華やかで視覚を楽しませてくれる。
見た目上は『FF13』や『FF15』にも似ているが、大半の行動をAIが制御しているこれらと比較して、今作では自分が操作していない他のキャラクターへの指示も重要になっている。戦闘に参加できる3人のうち、他の2人はATBゲージが貯まっても、何かしらの指示を出さなければ、基本的に通常攻撃を出し続けるようになっている。
そのため、自らティファを動かす傍らで、クラウドやバレットには回復薬に専念してもらうといった動きを自分で操作し、積極的に戦況を作り上げる必要があるのだ。「オプティマ」を選択することで各自が自動で役割に沿って動いてくれた『FF13』とは異なり、アクションをこなしつつ、更に他のキャラクターの行動を手動で決めるため、シビアなHP管理が要求される大ボスや集団戦では、けっこうやることが多い。しかし、それだけプレイヤーの介入度が大きいということであり、狙いが決まった際の爽快感も大きい。
キャラクターを戦闘中に切り替えることができ、これが要求される場面も多々ある。敵は必ずしもこちらに近接戦闘を仕掛けるとは限らず、場合によっては手が届かない場所から遠距離攻撃を放ってくることもある。そんな時には、バレットやエアリスといった遠距離攻撃のキャラにスイッチし、こちらも応戦するのが有効になる。
スピーディーで派手なエフェクトが飛び交うアクションはPS4の性能をフル活用しているが、「ATBゲージ」のような選択する際の戦略を組み立てるシステムも受け継がれており、新旧折衷の戦闘システムになっている。従来作のようにコマンドを選択する難易度「クラシック」も備わっており、新旧双方にとって受け入れられやすいシステムだと思う。
もちろん、キャラクターを直接操作して立ち回るアクションゲーム風味の味付けが施されているため、ジャンルそのものが変わったと言うことができ、単純な比較は難しい。しかし、キャラクターが構えを取ったまま待機し、ゲージが貯まっても即時性のない指示を出すのみという形式を当時のマシンスペック故の制約だったと考えれば、まどろっこしい仲介を受けずに思いのままにクラウド達を動かせるという点で今作が優っているのは間違いない。
また、戦闘に絡めて、各々が使用する武器をアップグレードできるようになった点も地味にありがたい。クラウドの愛品として、またFF7を象徴する武器として知られるバスターソードは『FF7』ではそのステータスの低さとマテリア装着数の少なさから、より強い武器を手に入れたら(縛りプレイでもない限り)装備品欄で埃を被るしかなかったが、今作では強化すればゲームを通して実用レベルで使えるようになった。
それでも傑作とは呼べない理由
さて、これまで述べてきた通り、今作の評価すべき点は多く、『FF7』のプレイ経験の有無を問わない。『FF7』の原型を継承しつつも、時代性に合わせたアレンジと技術力が織りなす量・質共に高められたルックスは、ゲームを愛する者であれば誰の目にも光ることだろう。
惜しいのは、これらの長所を以て今作を傑作と評価することが叶わないということだ。いずれもが一級品でありながら、しかしてそれは完全ではないのだから。
ここから、傑作とは呼ぶ上で躊躇する理由を中心に批評していく。
理由①:長期戦を強いられ、単調になりやすい戦闘
まず、先に述べた通り、『FF7R』の戦闘はアクション風味のボタンによる通常攻撃やスティック入力移動といった即時性を持ちつつ、「ATBシステム」を兼備したことによる爽快感と戦略性の両立が面白いと評した。
しかし、『FF7』のテイストを損ねないようにして斬新さを担保しようとした代償は見られる。
まず、「通常攻撃で絶えず攻撃し続ける」というプレイスタイルをシステムが推奨している都合上、概して敵が硬い。その突破口としては大型ボスなどは、「バーストゲージ」を貯めることがほぼ必須であり、更にそれを効率的に達成するには「部位破壊」を行う必要がある。敵の部位も攻撃を何度も叩き込み続ける必要があるが、クラウドやティファなどは通常攻撃が届かないか、そもそも今作のロックオンは複数対象の場合狙いを定めにくいため、どうしても「ATBゲージ」を貯めてアビリティや魔法で対象を選択する必要があるという回りくどさがある。
『FF7R』はシステムのコンセプトこそ爽快だが思考を要するオリジナリティを有しているが、いかんせん敵をバーストすることを前提にしているため、とにかく戦闘が間延びしやすい。特に一部ボスは、バーストゲージが貯まりにくい状態に一定時間変化することもあり、その間は回避に専念するか軽微なダメージだが通常攻撃を打ってくなどでお茶を濁すしかない。
また、ストーリーで戦うボスは、一定ダメージを与えるとムービー演出が挿入されて新たな形態になるが、これが非常に厄介。それまでせっせと貯めていたバーストゲージがリセットされてしまうのである。バーストゲージ自体貯まりにくく、任意のタイミングでバーストさせることは不可能に近いため、これに対してプレイヤーが取れる防止策は無い。
今作では「リミットゲージ」が貯まれば原作同様に「凶斬り」や「グレネードボム」といった大技を使えたり、召喚獣を召喚して一時的に味方に出来たりもするが、これも調整不足を感じる。敵のHP量が多すぎることやバーストさせていないとダメージ量自体控え目になってしまうこともあるため、『FF7』のそれらよりも恩恵を感じにくい場面が散見されるのだ。数多く存在するアビリティも、とにかく敵が硬いため性能差が実感しづらく、魔法に関しても「みやぶる」マテリアを装着して弱点をつかないと大したダメージが出なかったりする。
結局のところ、一見自由にクラウド達を動かせると思いきや、回復マテリアをパーティ全員にセットし、「みやぶる」を使用して弱点を突いて殴りつつ回復重視というプレイスタイルに収束していき、本末転倒な事態になってしまう。回避やガードといったプレイヤー個人の技量が問われそうな操作も即座に反応してくれないなど、使い勝手があまり良くなく、敵の攻撃を回避やガードではなくケアル系で対処する方向になりやすい。
戦闘のコンセプトは評価できるものの、今作では完成形に至っているとは言い難い。
理由②:物語性と『FF』シリーズの理念の欠落
今作のストーリーは事前に分かっていた通り、ミッドガル脱出までを描いたものでしかない。
神羅カンパニーのエネルギー事業、ミッドガルの社会構造、反神羅組織・アバランチの目的、クラウドとその仲間との関係、エアリスが狙われる理由である古代種とは何かといった基本的なストーリーの土台は確かにミッドガル編でお披露目されてはいる。
だがここが問題で、本当にただ設定が並べられただけなのである。肝心のストーリーの根幹をなす「星の命を救う」という目的に対して殆ど何も進行していないに等しく、終盤は仲間を救出して終わるため、言ってしまえば典型的「俺達の戦いはこれからだ」である。
こうした意見に対して、「ゲーム内容はミッドガル編までの分作と発表されていた以上、そんなことはわかりきっていたじゃないか」というような反論はあるかもしれない。確かに尤もな意見であり、自分もこうなることはある程度予測はしていた。
しかし、それでも元は1本のゲームを分割するという異例の手法を取るからには、1本のゲームとして自立し得る強固なストーリーを提供してくれるはずだという期待もまたあったのだ。
例えば、『ハリー・ポッターと賢者の石』を鑑賞した当時の観客は、「ヴォルデモートとの決着がついていない」ことを以て作品を批判したであろうか。同作が高い評価を得て、その後のシリーズが着々と作られていったことを考えれば、それはどちらかと言えば少数の見方だろう。確かに肝心の黒幕との決着はお預けになってはいるが、ハリーが魔法界での体験を通じて友人や仲間を得て成長していく物語があり、それは同作内で一旦の決着がついている。シリーズの第1作という位置づけながら、単作としては孤独な少年が冒険の末に至った結末をきちんと示していたから、観客は満足して劇場を去ることができたのだ。
一方で、この『FF7R』は、舞台設定とキャラクターの紹介、あるいは次回に続く露骨な布石を張り巡らせることに時間を費やすばかりで、今作限りではカタルシスを得られるような物語は存在しない。時間ばかりが1本のゲームに相当するボリュームになっただけであり、ストーリーに関して言えば、得るものがない。
明らかに現実の環境問題のメタファーに思える神羅カンパニーと魔晄炉の件については、今作ではほぼアバランチ側の視点で悪者扱いを受けるに留まり、多少自分たちの破壊活動に疑問を持つシーンはあれど、結論は先延ばしである。「クラウドが星を救おうと決意するに至るまでの心境の変化」を軸としてクライマックスでそれを決定付けるといった形で今作の物語を構築することはできたと思うのだが、そうした痕跡もなく、結果的には数多くの改変がありつつも原作の大筋をなぞっただけに留まっている。
唯一オリジナルとは大きく異なった展開を見せる終盤に関しても、スクウェア・エニックスの近作『キングダムハーツ3』『FF15』のように、説明不足が悪目立ちしている。結局、今作限りでは物語は不完全であり、そもそもすべての描写の意味を理解するにも後続作や他の媒体で補完する必要がある有様だ。ネタバレにならないようにクライマックスを説明すると、「敵対する理由がよくわからない人物と主人公達が戦う」というものになっており、『FF7』をプレイしていても困惑するし、プレイしていなければもっとよくわからない話になっている。
このようにして、今作には単作として満足できる物語性がなく、結論や数々の謎は次回作(もしくはアルティマニア)にお預けとなっている。
さらに言えば、ーーむしろこちらの方がより重要であるがーー今作の手法からはかつての『FF』シリーズに感じられた理念が欠如してしまっているように思えてならないのが寂しい。
『FF』シリーズがここまで強大なフランチャイズに導いた要因を自分なりに考えると、それは常に新しいことに挑戦し続ける姿勢にあったのではないかと思うのだ。『FF』は不思議な力を持った結晶「クリスタル」や架空の生き物「チョコボ」、はたまた「シド」という人名など一部の共通点を除いては、作品ごとに全く異なるキャラクターと舞台で物語を紡いできた。
『FF7』の次に作られた『FF8』は一転して近未来風の世界にある傭兵養成学校を舞台にしているし、更にその次の『FF9』では原点回帰を思わせるスチームパンク風の世界にSF要素も潜んでいたように、決して安住しない作り手の意欲が毎回窺えた。そして『FF』はその都度、ハードスペックを最大限活用した美麗なグラフィックと重厚なストーリーの力で、プレイヤーを未知の世界へと引き込み、強大な1本の物語を届けてくれた。
マリオやリンクといったお馴染みの顔が主役として出てこないゲームでありながら、むしろそうした欠落は、それを補ってあまりあるほどの魅力を目指す作り手の矜持のようすら思えるのだ。近年では国内売上が低下してきているが、それでもミリオンを達成するほどの大衆人気を獲得しているのは、ひとえにその覚悟が積み上げてきた末のブランド価値によるところが大きいのではないだろうか。
そうしたチャレンジスピリットに照らし合わせると、この『FF7R』は真逆のことをやってしまっている。今作限りではストーリーは完結せず、次回に続くやり方は、かつての『FF』が毎回異なる物語を1から構築していた姿とはまるで重ならない。何より、今作でも多少のアレンジや改変はされているものの、基本的には既に広く知られている『FF7』の舞台とキャラクターを踏襲しているため、未知を知るという意味での驚きは薄い。
未知の世界での冒険の始まりから終わりまでを1本のゲームにしていた『FF』の理念が今作では欠落してしまっているのが、最も残念かもしれない。次回作以降が順調に発売され、すべての謎が解けて、物語が掲げたテーマが伝えられたとして、『FF7R』は依然としてひとつのピースに過ぎない。そのため、傑作という言葉を今作に当てはめることは強く躊躇われる。
しかも不安なことに、この『FF7R』は全部で何部作になるのかすら現時点では未定だという。全体像が見えていない中で、この中途半端なストーリーと分作構想を語られても、純粋な期待を寄せることは至難の技だ。
理由③:昨今のAAAタイトルと比較してのボリュームの物足りなさ
ゲーム1本分に匹敵するとされた内容のボリュームについても、不満はある。
確かにキャラクターの深掘り、「COMPILATION of FF7」の要素を取り入れた設定の数々、新規のイベントやサブクエストといった要素でボリュームが増えたことにより、自分はクリアまで35時間程度かかった。ちなみに『FF7』を初めてプレイした時、ミッドガル脱出まで6、7時間程度かかったと記憶している。台詞を読み飛ばす等効率的なプレイに努めればもっと短縮可能ではあるが、これらを単純に比較すると少なくとも5倍〜6倍は増えている。
問題となってくるのはその内実だ。
一部のイベントはオリジナルをプレイしていると新鮮に感じられる。既に述べたようなジェシーに関するイベントやカットシーンやマップ探索時におけるキャラクター同士の掛け合いでは各々のパーソナリティや関係性が伺えるものが増えており、思い入れが深まる工夫として受け入れられた。
ただ、広くなったマップやマップ上に設置されたギミックに関しては、プレイし始めて早々にマンネリズムに陥っていた。今作のゲームプレイは、サブクエストが受注できる期間を除けば、「雑魚敵を戦いつつマップ探索→ムービー→イベント戦闘」の流れを愚直なまでに繰り返すのみで、終始変化がない。RPGだからそれがメインとなるのは仕方ないのだが、そうしたルーティーンに変化をもたらすはずのものが、マップ上に置かれた単調なミニゲームや、少ししかない寄り道程度なのが引っかかる。
ミニゲームは大体簡単なボタン操作で済む程度のもので、どうあがいても楽しいという感想を抱かせるレベルではない。むしろ露骨に時間稼ぎをさせられているような感覚になる。分岐した道の先に行ってもポーションやエリクサーみたいな回復アイテムしか落ちていないことはザラだし、マップ内ではいちいち梯子の上り下り、鉄骨渡り、狭かったり低かったりする通り道をゆっくり進むといったアクションを要求される。
メインストーリーを一直線に進めようとすると、何かしらの理由をつけて迂回を要求されるわけだが、その度に上記のようなミニゲームやアクションをやらされる羽目になる。マップ探索の楽しさは、『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』や『ウィッチャー3』といった他のAAAタイトルと比べてはいけない。ジャンルは違えど、同じくリニアな作りで所々で謎解きをする『アンチャーテッド』ももっと凝っていたし、何より演出の面白さはあちらの方が格段に上だ。もしスクウェア・エニックスによる美麗なグラフィックがなければ、探索パートは退屈を通り越して苦痛だったに違いない。
マップが広くなったことでミッドガルの空間的な広さを体感できるようになったのは、確かに利点ではあるのだが、ゲームの遊びの部分では総じて時間稼ぎめいたものが多く感じられたのは残念だ。一部のチャプターでは、「一刻の猶予も許されない」という状況下にありながら、さして本筋と関係ない出来事で足止めを喰らう場面まであり、ボリュームアップがすべて功を奏しているとは言い難い。
そして、最大の不満が、クリア後のやり込み要素が乏しいということだ。クリア後は難易度ハードが解禁され、チャプターごとにやり直しが出来る様になるが、1週目でサブクエストを消化してしまうと、後に残るのは典型的なアイテム収集要素やVRトレーニングで戦えるボスが増える程度である。個人差はあるだろうが、オールコンプリートを目指しても100時間には程遠いと推測できる。
これを正真正銘1本のゲームボリュームとみなせるかは、人によっては疑問が残るだろう。既に挙げたようなAAAタイトルは、100時間は遊べるものも珍しくはなく、プレイ時間で提供する遊びのバリエーションも充実していたりするため、それらと比較するとまず物足りないと思われる。
総括: 期待と不安が隣り合わせ
『FF7R』は、スクウェア・エニックス持ち前の映像表現によりオリジナル『FF7』のミッドガル編の魅力を余すことなく描写している。また、愚直に「忠実なリメイク」を志向するわけではなく、差異と深化が目立つストーリーと戦闘システムは、原作を知るプレイヤーに懐かしくも新鮮な体験を提供する。
ただし、いずれもが途上にある。その点で今作を正真正銘のマスターピースと呼ぶことはできないのだ。
シナリオは多くの謎を残したままその先は次回作以降に委ねられており、今作の物語は単独で結論を出していない。また、物語は『FF7』とも大きく異なっていくのではないかと思わせる予兆も見せており、この先はまるっきり未知の領域なのかもしれない。
ミッドガルを脱したクラウド達の旅の続きがいつ見られるのか。クリアした今となっては、もはや数多くの謎や布石よりも、それが最も気がかりである。
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