『Marvel’s Spider-Man』のオープンワールドは「巨大なハリボテ」でしかない【レビュー】

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こんにちは、好きなクマはパディントンのワタリ(@wataridley)です。

前回記事にした「『Marvel’s Spider-Man』の感想では、「これはキャラゲーの極致だ」と述べました。

フォトリアルなグラフィック、個性的なキャラクター、再現度の高いスパイダーマンの造形、スパイダーマンが飛び回るのにうってつけの原寸大のニューヨーク州のマンハッタン、原作の精神を引き継いだストーリー、プレイしているうちに自然とスパイダーマンになりきれるゲーム性など、どれも「スパイダーマンゲーム」という評価軸で測れば、高水準と言わざるを得ません

しかし、昨今のオープンワールドを採用したAAAタイトルで肥えた目には貧相に映る箇所もまたありました。

長所についての感想は前回散々述べたので、今回は他タイトルとの比較を交えつつ、洗いざらい『Marvel’s Spider-Man』の批評を行っていきます。

※ストーリーの項では結末を含めてネタバレしていますので、ご注意を。

 

マンハッタンは豪華なハリボテ

事件が発生し、すぐさま現場へ向かわんとするピーター・パーカー=スパイダーマンの姿からこのゲームの幕は上がる。

そして、コントローラーを握る者すべてがこの時点で恍惚とするはずだ。ゲームのグラフィックにて再現されたスパイダーマンの改めてクールなルックスもそうだが、なによりもそれが駆け抜ける街の現実そのものの風景に気持ちが昂ぶる。

フィスクタワーを攻略し、オープンワールドに放り出されたプレイヤーには「どこへでもいってもいい」というあの愉悦が覆いかぶさってくる。さながら豪華なおもちゃを与えられた子どもだ。自分は思わずスクリーンショットを撮ってしまった。

眼下に広がる街並みはフォトリアル。対照的に青空は澄んでいる。一定区間を跨いで異なった地域特色が見えてくるたび、観光気分に浸ることもできる。

しかし、それだけだ。

PS4のスパイダーマンが実現したオープンワールドの喜びは、大半が画面越しに見える世界の片鱗に触れることで巻き起こる。それは、未知の領域へ足を踏み入れたことによる一種の興奮状態といえよう。だから、興奮に慣れ切っていくと、景色に対していちいち感動することはない。

そうなってくると、外見に飽きたプレイヤーは中身、世界の深奥を知ろうとする。

ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』では、チュートリアルの舞台「はじまりの台地」を脱して冒険に慣れてもなおその奥深さがスパイスとなっていた。大地を焼けば上昇気流が発生し、丸太にエネルギーを貯めれば強力無比な原始的カタパルトと化す。各地に散らばったダンジョンを追ううちにお花畑に過保護な婦人と出くわすという予期せぬ出来事や、噂話で聞いた恋愛を成就させるパワースポットを見つけるも、それはダミーで頭を傾げる孤独な男性が見つかるといった風変わりな展開もある。こういった世界の奥を匂わす作り込みが、いちいちこちらの冒険心をくすぐってきたのだ。

ここまでの論調、およびこの章の題で察しがつくだろうが、このゲームのマンハッタンにはそうした奥深さを感じさせる瞬間があまりに少ない。というか皆無だ。

グランドセフトオート』シリーズに代表される都市を舞台にしたゲームではお馴染みの「店に入る」「タクシーに乗る」「飲食をする」などということは当然のように出来ない。スパイダーマンは一般のショップを利用するわけないと言われるとその通りだが、これがハリボテ感を増長させてしまっている

一応は街の人に話しかけられるが軽いやりとりに終始するなど、浅いところで止まってしまう要素の数々も散見される。『レッドデッドリデンプション2』では全てのNPCに対して挨拶ができる上、金目のものを強奪するといったアクションがとれた。『グランドセフトオート』シリーズでは、NPCの操縦する車などを強奪でき、タイトルに偽りなしな犯罪ができた。

しかし『Marvel’s Spider-Man』は、時折アクションアイコンが表示されるNPCと会話できるだけで、その内容も他愛のないものだ。ゲーム面で有益な情報をくれたかと思いきやスパイダーセンスですぐに見つかる収集アイテムの位置であったりと、この会話システムそのものが持て余している気さえする。

その街に落ちている収集物というのも、ピーター=スパイダーマンの過去を覗けるバックパックに留まっている。

このバックパック自体は50種類以上存在し、そのすべてがモデリングされている気合の込みようである。更にはピーターによる声付きの解説がなされ、この『Marvel’s Spider-Man』の過去に何があったのかを順不同かつ自由気ままに探っていけるオープンワールドゲームらしい収集要素となっている。

惜しいことに、バックパックの他に作品の裏側を覗ける要素はほぼ見当たらない。街で頻繁に発生する犯罪やギャングのアジトを襲撃しても手に入るのは「トークン」という味気ない報酬だ。

細かく作りこまれて、いろいろあるはずの街中でスパイダーマンが干渉できるオブジェクトはウェブスイングでいくら駆け回っても極わずかなのだ。

『ゼルダ BotW』や『RDR2』ではフィールドに落ちている物はだいたい拾うことができ、それがゲーム進行の上でも益となった。だから未開の地へ行くたびに、さらなる物資を求めてはしゃぎまわる楽しさがあった。

それに比べると、今作は街中をいくら探しまわっても入れる建物は無く、物も拾えない。ただただ一定時間で発生する犯罪や一定間隔に存在するギャングのアジトをルーティーン的に解決し、金太郎飴を切り分けられるようにしてトークンを与えられる。近年のオープンワールドゲームの魅力である物資集めの楽しさはひどく薄い。

また、世界観を一番に掘り下げるはずのメインミッションは、このオープンワールドの中で展開するのではないというちぐはぐな設計も残念だ。そのほとんどにおいて専用ステージ・シチュエーションが用意され、オープンワールドそっちのけで話は進む。そのためストーリーとオープンワールドが分離を引き起こしており、ストーリーがこのマンハッタンの魅力をアピールする機能を欠いてしまっている。

普段街中を駆けている時と気合の入ったカットシーンやステージ設計のなされている上で遊ぶ時とで、オープンワールドらしからぬスイッチのオンオフが生じている。その結果、遅くとも中盤あたりで普段のフリー探索時の底の知れた感じが漂い始める。

たしかに「どこへでもいける」のだが「どこへいってもやることは少ない」オープンワールドなのだ、と。

 

やることはどれも決まりきっている

それに付随して、あまりに限定された遊びパターンが更にこのゲームの限界を感じさせる。

今作のプレイ時間に費やす大半の行動は以下の通りである。

  • 目的地へ向かう
  • 逃げる目標を追いかける
  • 敵と戦う

とにかく愚直なまでにこの3パターンを繰り返すことによってメインストーリーとサブミッションは成り立っている。

メインミッションを始めるために、目的地マーカーに向かってR2を押しながら移動。メインミッションでは、敵のアジトへ潜入し、探索し、なんだかんだ見つかって敵に囲まれ戦闘へ突入するという具合だ。ミッションによって順番が前後する程度でやることはだいたい変わらない。変わるのはミッション毎に異なるロケーション程度だ。

時折、超人ではない報道記者のMJや高校生のマイルズを操作するパートが挿まれるものの、20年近く前に出た『メタルギアソリッド2』よりも浅いステルスゲームをやらされることが大半でどうにも面白味に欠ける。

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移動と戦闘、そして時々ステルスを何度もやるメインミッションの息抜きにとサブイベントに駆り出したところで、やはりやることは移動と戦闘である。追いかける対象が鳩、写真に写ったヒントを元に探し物、有毒物質を集めるといった体裁だけとっかえひっかえして、遊びの中身はそのまま据え置きなものだから、メインミッション外で気分転換を図ることさえ難しい。寧ろ、1プレイあたりの時間が軽く済むことを除けば、映画的なカットシーンや明確な起伏が存在するメインストーリーに単に劣ってしまう出来だ。

正直スパイディがお喋りなキャラクターでなければかなり退屈な時間になっていたと思う。

ひとつまったく毛色の異なる遊びはあった。ストーリーで何度か訪れることになる研究所に設置されたミニゲームだ。いかにも研究開発らしいインターフェースで、研究者気分にはなれる。しかし、スパイダーマンのゲームでやることじゃないので、やはり微妙だ。

自分はこれらの定型的なゲーム進行自体を否定するつもりはない。探索、ステルス、戦闘の3パターンがプレイアブルパートを占めている『アンチャーテッド』は各方面で高評価を得ており、現に自分も『2』と『3』を何週も遊んでいた。

しかし、『アンチャーテッド』と『Marvel’s Spider-Man』の間には、「リニアかオープンか」という決定的な差異が存在している。

始まりから終わりまでをすべて制作者が決めている直線的なストーリーにおいて、上記の少ないパターンで通すには、相応の工夫が要る。『アンチャーテッド』の魅力としてまず第一に挙げられるであろう、映画ライクな映像・演出はゲームの世界に置いてひと際個性を放っていた。突出するほど優れているわけではないながら、クリアまで20時間もしないストーリーをゲームプレイと結び付け全力で楽しませる用意があった。リニアだからこそ集中的にリソースをコントロールし、道中の遺跡や廃墟などをため息が出るほど美しく描くこともできたのだろう。何度も同じことをやらされると揶揄しながらも、コントローラーを握る手には汗が滲むほどの魅力がパッケージされていた。プレイヤーの行動範囲を縛ることで、一本道の舗装を全力でゴージャスにしていたのが『アンチャーテッド』だ

話を『Marvel’s Spider-Man』に戻そう。こちらは、リニアではなくオープンワールドゲームという建前がある以上、メインストーリーは「遊びの一つ」となる。その遊びはたしかに映画『スパイダーマン』に匹敵するほどに映像作品として作りこまれ、QTEによって再現されるスパイダーマンの超人的アクションといった魅力的な描写があった。

しかし、肝心の遊びはキャラクターたるスパイダーマンに制御され、できることはゲーム面でも限られている。しばし敵が運用する銃やロケットランチャーは奪って使えない。探索パートにおいては、思わぬ拾い物や強力な武器の発見といったものはない。ステージごとに変わる施設はどれも目新しさにかけており、結局は調べてくれと言わんばかりに設置された小物に向かって△ボタンを押す作業と化してしまう。ステルス行動におけるMJやマイルズは絶対に見つかってはならない非力な存在であり、使える武器も行動も限られている。

逆にスパイダーマンだと、見つかってしまうことへの緊迫感が足りず、いつ見つかっても戦闘で倒せてしまえるというキャラゲー故のレベルデザインの雑さも見受けられる。ステルスを含んだメインミッションでは達成すると報酬が増幅するノルマが設けられているものの、ゲーム上プレイヤーが好んでステルスを通す理由は無に等しい。

このようにメインミッション上でゲームとして物足りないと感じた部分があったことに加えて、先述したサブミッションのパターンの少なさが行き場のなさに拍車をかけている。選択肢がたくさんあるべきオープンワールドであるにも関わらず、メインパートの手数すら不足気味で、サブミッションもほとんどメインミッションのダウングレード版なのだから、これは不満点として挙げざるを得ない。

メインストーリーでは豪華な映像を楽しむことはできるが、ゲームプレイは紋切り型。サブイベントはハプニング、ならびに刺激がない。できることが決まりきっているオープンワールドとなってくると、魅力的なリニアゲームが恋しくなってしまう。

 

ストーリーはやや消化不良

上記では基本的なゲームデザインについての不満を述べてきたが、最後にストーリーについても触れておく。

ストーリーは一言では楽しめた。しかし、疑問符が浮かばざるを得ない部分も多々あった

まず、ミスター・ネガティヴの件は解決しているようでまるで解決していない。彼が親しくしていたメイおばさんとの和解は終ぞ描かれず、悪しき心を振り払い改心した様子もなし。また、ミスター・ネガティヴ誕生の原因となったノーマンによるかつての人体実験の反省や償いがないなど後味も異様に悪い。

そのノーマンに関しても明らかに次回作へ続くドラマを残して幕引きという、中途半端に先が気になるストーリーとなっている。

またヴィランは一通り出てくるものの、リザード、ヴェノム、カーネイジ、グリーンゴブリン(こちらは次回作)など耳にしたことのある人気のキャラクターが出てこない。スパイダーマンのゲームとしては片手落ち感がある。

その割に登場しているヴィランはネガティヴとオクトパス以外はゲスト的な顔見せレベルに留まっている。それならいっそ全員ゲストで出すことはできなかったのだろうかと思ってしまう。上記の中途半端なノーマンの件と合わせて、一作で勝負しようという姿勢がストーリーからは感じられないのが惜しかった。

DLCも予定されているが、本編をクリアしてすぐさま別のゲームに移る人もいるため、フォローとしては微妙なところである。

 

まとめ: 次なる進歩に期待

上記に挙げてきた事柄は、このゲームの表層的なつくりを物語っている。遊んでいる最中は楽しいが、じきにその深奥がそもそも作られていないことに気づく。

では、つまらないゲームかというと、決してそんなことはない

前回の記事で述べたように、表層的な楽しさは多量にある。序盤は街並みの綺麗さ、スパイダーマンのアクションにうつつを抜かし、やがて難易度が上昇していくにつれスパイダーガジェットを強化して戦略性を高めていく。そして恩師が変貌を遂げた末にDr. オクトパスが出現。それを機にマンハッタンが混乱に突入し、熱したストーリーに乗ってクリアまで到達する。このようにストーリーをクリアするまでは、ノリが持続する魅力はじゅうぶん用意されているのだ。

そもそも今作を「オープンワールドゲーム」というジャンルに当てはめること自体が愚行なのかもしれない。はなから期待されているオープンワールドの役割はスパイダーマンが駆け抜ける庭程度であって、世界とゲームプレイについて練りこむ気はないようにも見える。

それが正しいのであれば、たしかに一時の娯楽として『Marvel’s Spider-Man』はかねてからのファンを興奮させるだけの材料を揃えている。決定的な破綻を感じさせはしない最低限のゲーム体験を担保しながら、その上にスパイダーマン独自の魅力である「縦横無尽にビル群を駆けまわる」を実現しているのだから、それだけで素晴らしいことなのだと思う。

願わくば、今作のヒットを受けて、今後続くDLCが更に面白い遊びを含んだものであり、かつ将来の続編が大胆なグレードアップを遂げてほしいと思う。

前回の記事はこちら↓

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