『ポケットモンスター ソード・シールド』感想: 最強のポケモンを目指した傷痕が残る最新作

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アイキャッチ画像: (c)1995-2019 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

こんにちは、初めてプレイしたポケモンは『ポケットモンスター サファイア』だったワタリ(@wataridley)です。

今回は2019年11月15日に発売されたNintendo Switch専用ソフト『ポケットモンスター ソード・シールド』(以降、ポケモン剣盾)の感想を書いていきます。

『ポケモン剣盾』の情報が初めて解禁されたのは、今年の2月27日のポケモンダイレクト。以前から言及されていた通り、携帯ゲーム機である3DSからNintendo Switchへとプラットフォームを移行。舞台のガラル地方とパートナーとなる3匹のポケモン、サルノリ、ヒバニー、メッソンなどの情報が明かされました。『ルビー・サファイア』以降新作が出るたびにポケモンを買ってきた自分にとって2019年の大きな楽しみのひとつになりました。

また、ここで印象的だったのが、ディレクターを務める大森滋氏による「最強のポケットモンスターをテーマに本作の開発に取り組んでいる」という発言。

▲上の動画の6:04~参照

『ブラック・ホワイト』では荒削りなドット絵ながら戦闘画面でポケモンが常に動くようになり、『X・Y』では初めて鮮明な3Dモデルを採用したことで見知ったポケモンがより身近に感じられるようになりました。前作『サン・ムーン』ではそれまでデフォルメ化して描かれていた登場人物も等身大となり、ポケモンは世代を経るごとに確かに進化を続けてきました。単なる外見レベルの話だけではなく、対戦面でも「隠れ特性(通称:夢特性)」「メガシンカ」「Zワザ」といったテコ入れが新作のたびに行われ、飽きさせない工夫が見られました。

そこにきて改めて「最強」というシンプルで力強い言葉を使って所信表明するからには、これはもう自分の期待も尋常ならざるを得ないわけです。

ポケモントレーナーの自分も今では平日は働いているのですが、その期待に体を突き動かされ、11月15日の0時にダウンロード版でガラル地方での冒険を開始していました。そして、発売日から熱を入れて冒険し、殿堂入り後の対戦要素を楽しむ今、その「最強」の言葉の意味が腑に落ちました。

以降、詳細なゲーム内容についての感想を書いていきます。今作で初登場のポケモンやストーリーのネタバレについては極力避けた内容を心がけていますが、未プレイでなるべく事前情報を知りたくない方は念のためご注意ください。

 

「最強のポケモン」を目指して向上した面白さ

『ポケモン剣盾』は、あらゆる面で進化を遂げている。見てすぐにわかるグラフィックからお約束を現代向けにリファインした細かな仕様変更に至るまで、しっかりと変革を感じさせてくれる。

 

ポケモンの生態がきちんと見える喜びと快適性

今までのポケモンでは、草むらや洞窟、海や湖の上を歩いている最中に、急に戦闘画面に切り替わるランダムエンカウント方式が当たり前だった。例外は、『BW』『ORAS』などの作品で、珍しいポケモンの影が一様に草むらからちらついていたくらいだ。故に、自然に息づくポケモンの姿はプレイヤーが想像するか、アニメなどの他メディアで補完するしかなかった。

一方、今作ではポケモンの生態が直接的に描かれる。草むらにはヨクバリスやワンパチの尻尾や胴がはみ出し、湖ではギャラドスやホエルオーが悠々と泳いでいる。正確には、Nintendo Switchで2018年に発売された『レッツゴーピカチュウ・レッツゴーイーブイ』からの続投要素ではあるが、あちらはリメイクを兼ねた試験的作品だったため、本流作品では初の導入となる。

ワイルドエリアやガラル地方の道路では多種多様なポケモンが歩いている。今まではストーリー上の目標地点の途中にある草むらをやむなく歩くだけだったのが、今作ではポケモンを探して回る感覚が強くなった。各々が気ままに鳴き声を発する風景があれば、こちらの存在に気づくと一目散に逃げるポケモン、逆に襲いかかってくるポケモンなどの姿もある。

ゲーム面のメリットと言えば、意図して戦闘を回避できるようになったことが挙げられる。ランダムエンカウントだと自分の意思とは反して戦闘を強要される感覚があったし、回避するにはアイテムを使わないといけない煩わしさがあった。こうした小さなストレスは今作では極小化され、代わりにフィールドの見栄えが良くなっている。

シンボルのおかげで、目当てのポケモン以外は避けるということもある程度は可能なので、自分で行動を決められる感覚が従来作と比べてぐっと強まった。キテルグマの群れに挑みにいくのも、あるいは恐怖のあまり逃げ出すのも、プレイヤー次第だ。

 

広大な「ワイルドエリア」の解放感

そして、ポケモンが大量に生息するワイルドエリアも欠かせない。ガラル地方の中心街であるエンジンシティとナックルシティを結ぶ自然地域であり、ストーリー上では序盤・中盤に通過することになるが、ひとつなぎのマップとしては歴代で最も広大で、多種多様なポケモンと出会うことができる。

過去作で登場したポケモンを見かければ懐かしく感じると同時に、フィールド上で歩き回っている姿は新鮮でもある。天候や場所によって出てくるポケモンは異なっており、各種生態に即した風景を見せてくれる。序盤の時点で進行度に見合わないレベルのポケモンも登場するようになっており、自然の厳しさを身に染みて味わうことになる。同じ発売元が任天堂のソフトでいうと『ゼノブレイド』シリーズを彷彿とさせる。このおかげで、ほとんど形骸化していたアイテム「ピッピ人形」が、戦闘から確定で逃げられることから存在価値が高まっていて面白い。

また、ワイルドエリアでのみカメラを操作できるようになった点も地味ながら嬉しい。今までの『ポケモン』ではカメラは固定で作り手の意図したアングルとズームでしか動けなかったのに対して、今作のワイルドエリアは右スティックでプレイヤーへのズームイン、ズームアウトを変更できる。スティック入力でカメラを回せば、四方にいるポケモンや気になるスポットを目に留め、あそこへ行こうという気持ちを呼び起こしてくれる。あまり目立たない要素ではあるが、広大なマップとそこに生息するポケモンという掛け算にカメラ操作という新たな項が加わることで、よりワイルドエリアの魅力が増しているのは間違いない。

例の如く、ジムバッジの獲得数に応じて指示を聞くポケモンのレベルは制限されているが、今回は捕獲可能なレベルも制限されている。よって、流石に1つ目のジムに行ってすらいない段階から30レベル台のポケモンを捕獲することはできない。しかし倒すことで大量の経験値が手に入ることに変わりはなく、巨大化したポケモンに4人で挑む「マックスレイドバトル」に挑むと大量の報酬までゲットできるため、ワイルドエリアで鍛えまくって力任せにストーリーを進めることもできてしまう。

ストーリーが全面に押し出されていて一本道の印象が強かった『BW』や『SM』に比べると、今作のストーリーは道中はあっさり気味のため、ジムチャレンジに飽きたら「ワイルドエリアを探索する」「マックスレイドバトルに挑む」といった寄り道としてもうまく機能している。また、YY通信を繋げれば他のプレイヤーの姿が表示されるようになり、誰かがいる安心感を得られる。繋がりを感じるという意味では、思わず直近に発売された『デス・ストランディング』を連想した。

 

据え置き機に相応しい巨大化「ダイマックス」

今作ではメガシンカやZワザに代わるシステムとして、「ダイマックス」が導入された。1回のバトルにつき1回のみ可能な強化手段であり、ダイマックスをしたポケモンはトレーナーや他のポケモンが米粒に見えるまでに巨大化ないしHPが倍増し、強力な技を繰り出すことができる。

このシステムはどうやら据え置きゲーム機でもあるNintendo Switchに合わせたシステムらしく、なかなか迫力のあるバトルが楽しめるようになっている。単純に巨大生物同士がぶつかり合うという部分でロマンを感じるし、発動の際にトレーナーが電脳マシンじみた巨大なモンスターボールを投げる演出なども見応えがある。技のエフェクトも名前の如くダイナミックになっており、相手が小型ポケモンなら可哀想に思えてくる。

技はすべて元となった技のタイプに応じた高威力技「ダイマックスわざ」に変化し、追加効果も軒並み有用なものばかりである。高火力を叩き込みつつ、ひこう技ならすばやさ一段階アップ、ほのお技なら天候を晴れに変更、くさ技ならグラスフィールドを展開するなど、場合によっては有利不利を一気に覆しうるほどに強力。しかもZワザのように「まもる」を貫通してダメージを与えられる。ダイマックスわざを防ぐ手段は、ダイマックス時にのみ使用可能な変化技を元にした「ダイウォール」しかない。

ただし、大半が一方的な強化(所謂「出し得」)だったメガシンカからの反省を踏まえてか、ダイマックスは「3ターン限定」という制限があり、また交代しても解除されてしまう。先制や怯みといった優秀な追加効果までもが消えてしまう点や、補助技や積み技といった変化技が主体のポケモンだと前述の「ダイウォール」に変化してしまい、元の技が使えなくなるデメリットも見過ごせない。そのため、メガシンカ以上に使うタイミングが肝要であり、このあたりはZワザの要素もうまいこと取り入れられている。「先にダイマックスしたはいいものの、3ターンを凌がれてしまい、今度は自分が一方的に守りに入らざるを得なくなる」といった事態が起こりうるため、考えなしに乱用できる強化手段にはなっていない。対戦でもメガガルーラのようなポケモンが登場していないため、なかなか良好なバランスを保った新要素だと思う。

持ち物も自由であるため、メガシンカやZワザのような窮屈さもない。ダイマックス中は、一部の持ち物は効果が消えるという仕様を活かして「こだわりスカーフで一匹を倒してから、ダイマックスして別の技に切り替える」といった今までにない戦術が対戦でも見られるようになった。

何より、ダイマックスはメガシンカとは異なり、「どんなポケモンでもなれる形態」である。対戦においてはそれが「読み」を生んでいると同時に、「メガシンカできないポケモン」がいなくなったのが有難い。

一方で、一部の特別な個体のみが行える「キョダイマックス」では、巨大化に加えて姿形そのものが変化し、特別なダイマックスわざである「キョダイマックスわざ」が使えるようになる。メガシンカは廃止になってしまったものの、固有の変化を楽しむ要素はこちらで残されていると言えよう。

 

ポケモン史上初の協力プレイ「マックスレイドバトル」

これまでのポケットモンスターでは、他のプレイヤーとの繋がりは、「交換」「対戦」の2つだったが、今回ここに「協力」が加わった。

ワイルドエリアの所々で見える赤い光の柱の元へ行くと、ダイマックスしたポケモン1体に4人で挑む「マックスレイドバトル」をはじめることができる。

4人で順繰りに技を出していくというシンプルなルールではあるが、敵のダイマックスポケモンはHPが非常に高く、おまけにステータス下降や状態異常を掻き消してくるため、ひとりでの突発は困難。補助技による味方へのバフや4人で効果力技を叩き込むといった連携が必要になる。この手のボスを倒した時の達成感は、やはり1人でやる時よりも4人でやった時の方が増幅するもので、間違いなく今までのポケモンにはない遊びになっている。

マックスレイドバトルではポケモンのレベルを上げる「ふしぎなあめ」といったレアアイテムがざっくざっくと手に入るため、積極的にチャレンジしたくなること請け合いだ。

『BW』におけるトリプルバトルとローテーションバトル、『SM』におけるバトルロイヤルのようにストーリーから距離を置いたおまけかと思いきや、ストーリーでも意外なところでこのマックスレイドバトルが出てくるので、大いに盛り上がる要素でもあった。

唯一気がかりなのは、他のトレーナーがなかなか集まってくれないことが多く、モブトレーナーと共闘することになる機会がかなり多いことだ。今はネットがあるので人集めには苦労しないだろうが、ゲーム内でもっと気軽にマッチングできる機能が欲しい。それがあれば、もっとストーリーそっちのけでプレイしていたことだろう。

 

ストーリー演出とプレイヤードリヴンの両立

『ポケモン剣盾』のストーリーは、適度にプレイヤーの主体性を保証してくれる一方で、強い演出を局所に挿し込んでくる。キャッチーな音楽や明朗な個性を持ったキャラクターの登場、ジムチャレンジといった舞台仕立てが、それである。

長年、シリーズは「喋らない主人公」をプレイヤーに操作させることで、プレイヤー自らがポケモンの世界の一部になることを可能としてきた。どんなポケモンを捕まえ育成しようが、特定のタイプに手持ちを偏らせようが、おまけ要素に精を出そうが、すべては自分自身の行いなのだから誰からも咎められる謂れはない。ポケモン博士から託されたポケモン図鑑も、完成させずにゲームから離れても構わないというプレイスタイルの寛容さを口無しの主人公は保証してくれていたのである。

そんな中、『BW』以後の作品では、それとは相反する形で「RPGとしてのストーリー」も追求されてきた。流石に「悪の組織を倒す」「ポケモンリーグでチャンピオンになる」といった金太郎飴のようなものを続けては、飽きられてしまうと危惧したのかもしれない。しかし、『BW』におけるNについては、そのミステリアスな人物像にしても、デリケートな問題提起にしても、喋らない主人公との不和を指摘する声が今でもある。また、『SM』においても、「島めぐり」という主目標が途中からリーリエをはじめとした他の枝葉に取って代わられる展開に対する反応も、自分が観測する範囲でだが、はっきりと賛否分かれていた。

『ORAS』のクリア後ストーリー「エピソードデルタ」おけるヒガナは、こうした『ポケモン』シリーズにおけるストーリーの欠点を露骨に物語るキャラクターだ。殿堂入りしたプレイヤーとしてはとっととポケモン図鑑を完成させるなり、レート対戦に潜るなりといった各々の欲求を抱えているにも関わらず、主張の激しいストーリーを強いられてしまう。もし仮に「エピソードデルタ」が、オプショナルな作りで、あくまでプレイヤーの恣意性に委ねられる程度の扱いであったのなら、最終的な批判は少なかったのではないだろうか。しかし、殿堂入り直後唐突に始まるそれは、プレイヤーの自由を狭め、かつ対戦向けの育成環境を目の前にぶらさげてくる。

つまるところ、『ポケモン』シリーズは、「プレイヤーがポケモントレーナーになる」という自主性と「クリアまでプレイヤーを引き付ける」というストーリー性双方の妥協点が完璧に見出されているとは言い難い状態だった。

ここにきて、『ポケモン剣盾』のストーリーは至極単純になっている。「ガラル地方を挙げてのビッグイベントたるジムチャレンジに挑んで、最終的にポケモンリーグのチャンピオンを倒す」という目標が、プレイ開始後すぐに明確化される。『SM』で一時的に廃止されたジムが復活したことで、『X・Y』以前に戻ったように見える。

実際、プレイヤーはガラル地方のワイルドエリア、または道路を経由して各々の街にあるジムスタジアムに到達するというシリーズお馴染みの「AからBへ」の移動を繰り返すことになる。この道中においてはソニアやダンテ、ホップといったキャラクター達の誘導やライバルや悪の組織との衝突がありつつも、それほど長時間にわたってプレイヤーの行動範囲や動機を縛るような無粋な真似はしない。早期から従来の「そらをとぶ」に代わる「そらとぶタクシー」が無制限に使えるようになるため、自らの意思で来た道を戻っても何ら問題はない。何より今作には自由探索でき、歴代一の広さを誇るワイルドエリアがある。『BW』や『SM』と異なり、ストーリーがプレイヤーをいたずらに束縛することはないのだ。

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では、「ジムチャレンジを制覇する」という主目的への誘引力はないのだろうか?そんなことは全くなかった。

なぜなら今作のジムチャレンジは、歴代でも最も盛り上がれる舞台仕立てがなされているからだ。

従来作と比べても、明確にスタジアム状になっているジムからわかる通り、ガラル地方ではポケモンバトルはサッカーのような位置づけになっている。ジムチャレンジは、今までのシリーズ以上に公式が催している一大祭事としての側面を強めており、スタジアムの観客席を大量の人とポケモンが埋め尽くしている。プレイヤーとしても規模感のある舞台や湧き立つNPCに触れると、そうしたでかいイベントに参加しているという感覚が得られるわけだ。

ジムリーダーとバトルする資格を得るためのジムチャレンジこそ従来のジムの謎解きとあまり変わらないが、クリアすればいよいよスタジアムのど真ん中で主役になれる。控室からフィールドに入場していくシーンは自分で動かすことができ、あたかもスポーツ選手になったような感覚を味わえる。

ジムリーダー戦では、シームレスに戦闘画面に突入するなど、とにかく晴れ舞台での勝負を演出する仕掛けの数々が凝っている。またここでかかるジムリーダー戦のBGMは、テクノポップな音楽をベースにしながら、観客の歓声や合いの手がリズミカルに混ぜた楽曲に仕上がっている。『BW』とおなじく、最後の1匹で曲が変化する他、ポケモンが倒れた際やダイマックス発動時には声援がボリュームアップすることで、スタジアムの空気と一体になったかのような臨場感が味わえるのも今作の演出面で感心させられる点だ。ダイマックスは、マックスレイドバトルを除いては、ジムチャレンジでしか発動できない大技の扱いでもあるため、上記の演出と合わさってプレイヤーのボルテージを高めてくれる。

また、本筋を進めたくなる誘引力はキャラクターにも言える。

快活で前向きな性格だが、チャンピオン・ダンデの弟であるが故に悩みも抱えるライバル・ホップ。

エール団という過激なファンを持ち、パンクな見た目に反して善良な方言女子という属性により数多くのプレイヤーをエール団化させるマリィ。

ポケモンリーグの委員長推薦を鼻にかけ、慇懃無礼な口調で対立してくる反発系ライバル・ビート。

複数のライバルキャラクターとの賑やかなやりとりも物語のスパイスとして機能している。ジムリーダーも例の如く個性派揃いで、リーグカードなるアイテムで経歴や人物に迫ることができるようにもなっている。

ライバルの戦闘曲もまた、それぞれの性質を反映した雰囲気の楽曲で、なおかつ反芻したくなる中毒性がある。個人的には、マリィの戦闘曲は刺々しく耳を刺すエレキギター・ベース・ドラムのパートと、パンフルートのような涼しい音が奏でるいとけないメロディの同居が絶妙にキャラクターにマッチしていると思い、特にハマった。自分の中ではシリーズでいうところのNやフラダリに並ぶ名曲ではないかと思う。

ストーリーそのものにしてもシンプルに楽しめることを目指しているらしく、道中はこれらのライバルとの競争やジムチャレンジの制覇を目的としつつ、伝説のポケモンの伝承を追うパートが散発するのみ。『BW』や『SM』みたいな特定のキャラクターがストーリーを引っ掻き回すということもなく、しかしジムチャレンジやクライマックスではきちんと盛り上がる演出を入れてくる。ベースは「無口な主人公」に委ね、要所では「アガる演出」をはっきするといった濃淡がうまく機能していたように思う。

 

その他、利便性の向上

また、今作では細かい部分で数多くの調整が施されている。その一例も評価しておきたい。

 

秘伝技及びライドポケモン、フィールドギミックの廃止

『SM』に引き続き、今作では従来作品のような「秘伝技要員」なるポケモンを手持ちに入れておく必要性はない。それどころか『SM』におけるライドポケモン自体もばっさり廃止されたため、フィールド上に設置されたギミックをいちいち解いて進むという場面が、ジムチャレンジ以外ではほとんどなくなった。人によってはポケモンの力を借りて冒険するという部分に魅力を感じるかもしれないが、個人的にはどのギミックも単調に感じていたので、いっそのこと廃止にしてもらって煩わしさが減った。また、「そらをとぶ」が「そらとぶタクシー」に代わったことで、いちいちカットシーンを挟まず、マップ上で目的地を選択するだけでスキップトラベル可能になったのもありがたい。欲を言えば、メニュー画面を挟まず、マップをワンボタンで展開できれば尚良い。水上移動も自転車がその役目を担っており、とにかく楽。

 

メニュー画面の並べ替えが可能になった

地味ながらメニュー画面のボタンの配置をプレイヤーが決められるようになった。またレポートは、メニュー画面でRボタンを押せば即座に選択可能。キーコンフィグの類はないが、従来作品にあった「L=Aボタン設定」に近い形で、標準でZR/ZLが決定ボタンのひとつになっており、両方のスティックが移動操作に切り替わって片手操作ができる「ちょいらくモード」まで選択可能。ただしワイルドエリアでのカメラ操作ができなくなる。

 

ポケモンセンターに限らずどこからでもボックスを操作できるようになった(ジム等を除く)

殿堂入り前だと、どうしても手持ちが固定になってしまいがちだが、ボックス操作がメニュー経由で可能になったため、入れ替えがしやすくなった。色々なポケモンを使いながら旅がしたいという人には便利。

 

がくしゅうそうちの廃止

戦闘への貢献度や相手と自分のLV差などに応じてパーティ全体への経験値が自動配分されるようになった。オンオフは不可だが、敢えて学習装置を外してプレイしたいという人でなければ、そうデメリットには感じないはず。努力値まで配分されてしまうものの、前述の通りどこからでもボックスの出し入れができるため、努力値振りの作業で不便さを感じることはあまりない。

 

技の思い出し・忘れさせがポケモンセンターで無償(「ハートのウロコ」不要)で可能になった

「ハートのウロコ」を渡して技思い出しをするという不毛な作業が撤廃。これにより旅の最中でも気軽に技を変更できるようになった。また、技思い出し、技忘れさせ、ニックネーム変更は、それぞれ別人が担ったりもしていたが、すべて各ポケモンセンターの左側にあるカフェに一元化された。ユーザーフレンドリーと言わざるを得ない。

 

性格を変えられるアイテム登場

『X・Y』では準伝説以上のポケモンは個体値3V以上確定、『SM』では「ぎんのおうかん」「きんのおうかん」で個体値Vを後天的に変更できるようになる等、年々ポケモン対戦に向けた育成難度は下がりつつあるが、今作はアイテム「ミント」を使うことで性格に紐づくステータスの上昇・下降補正さえ変更可能に。性格そのものは変化しないため、「おうかん」同様に遺伝はできないものの、「色違いを見つけたが理想の性格ではなかった」「適当に性格厳選してしまいボックスで眠っている」といった死にポケモンへの救済措置ができただけでも、かなり嬉しい。(あとはヤトウモリ♂を救済するために性別変更アイテムを…)

 

最強のポケモンを目指して負った傷痕

ここまで述べてきたように従来から引き継いだ各種要素は大幅に改善された上、ワイルドエリアやダイマックスといった今作から新たに追加された要素はどれもうまく調整され、多くのプレイヤーに好意的に受け止められると思える。

正統進化と拡張を見せつけたという意味においては、たしかに「最強のポケモン」という称号はふさわしいだろう。しかし、最強を目指したが故に痛ましい傷痕もついている。

 

登場するのはガラル図鑑に載っているポケモンのみ(通称:リストラ)

今作では、発売前からファンの間で「リストラ」と称して騒動になっていたように、全てのポケモンが登場しない。

一例として、ダンデの手持ちにいるリザードンは出るが、その他の過去の御三家ポケモンはすべて未登場である。その土地に結びついた伝説のポケモン(アローラ地方の守護神であるカプ・コケコ等)もガラル地方には存在しえないため連れてこれない。

『X・Y』では既存のポケモンが更に進化を遂げるメガシンカ、『SM』からは環境に適応した「リージョンフォーム」なるモデル替えの登場によって、単に「新種のポケモンを増やし続ける」以外のアプローチも試みるようにはなってきた。

しかしそれでも、今やポケモンの種類も1000を超える目前となってしまった。それぞれは単なるデータとはいえ、人の手によって作られている以上、無尽蔵に増やし続けることは困難だろうということは、容易に察しがつく。

例えば、その登場するキャラクターの数に注目が集まる『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズですら、過去には前作までの登場キャラクターが最新作には登場しないという事態があった。2018年の『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』では、歴代シリーズに参戦した全てのキャラクターが一堂に会する「全員参戦」が大きなセールスポイントとなり、制作者の桜井政博氏自身も二度と実現できないという旨を語っている。

『スマブラ』に限らずとも、基本的に新作に際しては、ゲームシステムやバランスを加味して、ゲーム内の要素を整理するのだから、「過去作にあった全ての要素を最新作に収録する」ということは不可能に近い。

ポケモンに話を戻すと、最新作を制作するにあたって新種ポケモンの一体一体につきグラフィックやモーションを作り込む必要があり、流用するにせよ最新作の新システムに最適化するための作業を要する。今作で言えば、過去作から続投のポケモンでもキャンプで違和感無く動くのか、不具合は起こらないのかといった調整を行わなければならない。

こうした単なる外見上の体裁を整える作業量ですら膨大であることに加えて、『ポケモン』は対戦ゲームとしての側面を持っているために、タイプ・技・種族値・持ち物・特性といった数多もの掛け数が絡んだゲームバランス面の調整までもを行わねばならない。そうなってくると、もはやいくら人手があってもまとめきれるはずがないのである。

増田順一氏もこれは協議を重ねた末の苦しい決断だという旨を語っており、現状でも上記のような事態が起こっているであろうこと、また今後もポケモンが増え続けることを考えると、遅かれ早かれこうせざるをえなかったという事情が伺える。

1ファンとして物申せば、「ポケモン最新作には全てのポケモンを連れてくることはできない」という一報を聞いてショックを受けないわけにはいかなかった。『ポケモン』の最新作の楽しみとは、何も新種のポケモンとの出会いばかりではなく、自分が過去に慣れ親しんだポケモンも変わらずその世界に同居していて、ユニバースを拡張し続けることにもあると思っていたからだ。

しかし、上記のような事情により断念せざるを得ないというのであれば、そこは一旦受け止めて、まずは『ポケモン剣盾』をプレイしようと思った。ガラル地方にはどんなポケモンが住んでいるのか。ダイマックスはポケモンバトルにどんな変革をもたらすのか。どんな人々との出会いがあるのか。その期待を胸に冒険を開始し、そして殿堂入りを果たし、更なる高みを目指している今、これを書いている。

結果として全ポケモンが登場する集大成だった『ウルトラサン・ウルトラムーン』と比べて、今作は大きな傷痕を抱えながらも「最強のポケモン」たる風格を保っていると思えるようになった。さながら傷だらけのザシアン、ザマゼンタのように、それでも十分なパワーを持っている。

自分には、全てのポケモンが登場しない点は、あくまで激闘の末についてしまった傷であり、決して妥協や惰性の産物のようには思えなかった。ゲームシステム面ではそこかしこに改善が見られ、ガラル地方特有の迫力のダイマックスや、ポケモントレーナーにはたまらないワイルドエリア、新たなポケモンとの出会いをプレゼントしてくれたことに違いはないのだ。

もちろん、ポケモンファンとして、お気に入りのポケモンが出ないことへ未練はある。せっかく前作で愛好したマッシブーンや、『金・銀』時代から毎世代手持ちに入れていたハッサムが出ないのは残念だ。

だからこそ、いつかはこの未練を晴らす時が来てほしいと切に願う。

 

その他、細かな不満点

細かいが、いくつかの不満点があったため、それも書き留めておく。

 

一部のポケモンの進化条件がかなり特殊

今はネットがあるからまだいいが、ひと昔前なら攻略本に頼らざるを得ないほど変な進化条件を持ったポケモンがいる。いくらなんでも「特定のダメージを負うこと」と「特定の地点にいくこと」を掛け合わせた条件に単独で気付くことなんてできるわけないだろう。

これはひとえにポケモンの進化に驚きを付与したいという思いからくるのかもしれない。ただ、流石にわかりづらさの方が先に立ってしまうし、下手すると旅のパーティにずっといるのに、終盤まで未進化状態で進んでしまったという事態に陥りかねない。上記が最もわかりにくいパターンではあるが、他にもいくつか通常のレベルアップや石進化どころではない特殊な進化方法が散見される。未進化のステータスで終盤を挑ませられるプレイヤーにとっては理不尽かもしれない。

 

ワイルドエリアを除いては、カメラを動かせない

ワイルドエリアではカメラ操作ができる点を評価した一方で、通常のフィールドでは相変わらず固定カメラである。四方八方に広がる空間を自由に動き回るのはもはや当たり前となった3DのRPGにあるまじき仕様な気がする。現にワイルドエリアがそのスケール感をカメラで感じ取れたのだから、洞窟や森の探索も同様に後ろから主人公の背中を眺めてフィールドの雰囲気を味わいたかったものである。ここは、次回作以降に改善を期待する。

 

ワイルドエリアは広いが、ガラル地方全体はそうでもない

今作ではワイルドエリアがあるため、さほど窮屈な印象は受けないものの、街と街の間を結ぶ道路やダンジョンは歴代でも短めに感じられる。各フィールドの作り込みに関しては、むしろ『SM』よりも薄まっており、例えば洞窟はアイテムが配置されている分岐先がある程度で、主線はかなりわかりやすい一本道である。過去作なら階層が分かれていたり、外への別の抜け道があったりするものだが、今作にはそういうものがない。街中にある建物も内装はコピペ丸出しであり、配置されている人物やポケモンが異なる程度。せっかく魅力的なお城や工場施設が見えるのに、中には入れないといったケースも多く、全体を通してハリボテ感が強い。設定上はポケモン史上でも最大規模の都市も出てくるのに、面積が広いだけという印象が強い。要は探索のやり甲斐が感じられず、純粋にRPGとして見た際の魅力が気にかかるところである。

 

まとめ: 従来のメソッドを順当に拡張させ、新要素との相性も抜群のポケモン最新作

今作はガラル地方における固有の現象・ダイマックスをはじめとした新要素の数々がかなり楽しい。同時に、ジムの復活とその演出の強化に代表されるように、従来のポケモンらしさを尊重しつつ、据え置き機であるNintendo Switchに合わせたパワーアップを図っている。

前作の『SM』が『X・Y』の延長に近い作りだったのとは対照的に、1段と大きなステップを踏んだ印象を受ける。

登場するポケモンの数を制約するという手痛い代償の上で、こうした進歩があると考えると、落胆と喜びは隣り合わせではある。たしかに完全無欠の傑作というわけにはいかないかもしれないが、それでも傷を負いながらもユーザーに新たなポケモンとの出会いやダイマックスやワイルドエリアで驚きを与えることを目指した「最強のポケモン」と言えるのではないだろうか。

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