約束を果たした時に果たす約束『恋は雨上がりのように』最終回12話感想

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 こんにちは、この世で最も避けたいのは早起きだと思うワタリ(@watari_ww)です。

 今回は「恋は雨上がりのように」のクライマックスパートの12話の感想と考察を書きます。


雨は止んだ

 前回、店長からそれとなく陸上への復帰を促され、掻き消すように否定したあきら。進路調査票を挟んだ手帳の1ページを破いて、飛行機を作る行為は、鉛色の空が包む閉塞的な空気を打ち破らんとする意味があるのかもしれません。

 しかし、大気は不安定。ねずみ色の空の下、湿り気を感じ、持ち手を止めてしまう。

 吉澤とユイちゃんは、髪を切ることを通じて距離を着実に縮めている。そんな声を聞きながら、変わらぬ自分を感じている。変わろうにも、勇気を持って踏み出せない焦りが言外に表れているような気がして、こちらまで心配になります。

 店長は店長で、毎日本社へ通う。そんな彼の様子をあれこれ噂する店員たち、少し焦燥をちらつかせるあきら。

 雨がすこーしだけ降る日にやっと会話を交わすあきらと店長。交わした約束は、勇斗のみならず自分へ向けたものでもあると告げる。小説を書くことに打ち込む店長からは、夢を叶えるという以前に、自分の気持ちを果たすことへの清々しい心意気が感じられます。

 あきらにもあるかもしれない約束を店長は気づかせます。

 結局店長は、昇進するわけではなく、束の間ほっとするあきら。しかし、忘れたファイルを届けるために、走り出した彼女は、かつてはるかと共に走った日々を思い遣る。

 あきらに傘を差してあげる店長の姿は、まさしくあきらへ配慮を見せる今までの彼を徐に表しています。傘を差し伸べる、という行為は相手を雨から守ろうとするだけでなく、相合傘のように空間を共にすることのメタファーでもあります。だから、あきらは陸上への想いに振り切ることを決意し、店長の傘はもう必要ないことを告げたのです。

 そして、雨の上がった晴れやかな空へと景色が変わると、地表の水たまりも空を映し出す。

 去っていくあきらの姿を見て、自分とは別の方へ行ってしまう彼女に不安を抱き、呼び止める。店長にとってのあきらは、もはや他人事ではなく、行く末を知りたくなるほどに身近なものになっていたんですね。

 彼らの行く道は、陸上、文学という関わりの薄いもののように見えるけれど、互いに約束を果たした時には、その事を教えると言います。別々の道へ行ったとしても2人を結ぶ絆は存在し続け、雨上がりの空がそれを思い出させてくれると語りました。

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原作との違い

 「ここで一緒に風を見よう」と言うあきらとはるかの回想や陸上部時代の2人の思い出はアニメによる補完でした。

 「転んでビリになっても起き上がってゴールまで走る」という近藤からの言い伝えを聞くエピソードもまたオリジナルです。正確には、勇斗に走り方を教えるシーン自体は原作にもあります。ただ、アニメは原作と異なり、勇斗を媒介として近藤の決意を知ることになっていて、見た目は同じでも中身は変わっていると言えます。

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 「あきらに傘を差してあげる店長というシチュエーション」も原作には出てきていますが、ここではまだ物語は続いており、あきらは陸上復帰への決意はしません。沈んだあきらを心配した店長は、そのあとガーデンで出会った日のようにコーヒーをふるまう…という風に続いていきます。あきらを休息場所としてのガーデンへと留める店長のロールが象徴されているシーンであるわけです。

 ところが、アニメではこの傘のシーンを2人の岐路の出発点として描いており、思わず唸らされました。傘を差し伸べた店長はあきらのことを見守る大人です。しかし、あきらにはもうその傘は必要なくなり、空が晴れ渡っていく…。そしてお互いに相手を想いながらも別離する。原作とは真逆なのです。

 最終回において重要な風景になった「水たまり」も実は原作では違った形で出てはいました。店長と連絡先を交換できたあきらが、その日の帰りに浮かれ気分で飛び越えたのが水たまりだったのです。このエピソード自体はアニメでも扱われたのですが、水たまり描写はカットされていて、最終回にて異なった意味をもつアイテムになりました。

アニメ「恋雨」の振り返り

 全12話で原作全10巻(予定)をどのように扱うのか、はとても興味深い動向でした。大幅にカットして進めるのか。そもそも2期前提で途中までしか進めないのか。

結果として、そのどちらの予想も外れました。前半は原作に忠実に進行しつつ、後半からは原作後期の内容から「あきらの巣立ち」にかかわるエピソードを適切に拾って再構成し、最終回はオリジナル色の強い幕引きとなりました

原作を読んでいた身からしても、とても新鮮な再体験を味わうことができ、感心しました。原作でいう4巻あたりまでは、あきらと店長が徐々に距離を縮めていく過程にハラハラさせられる恋愛色に楽しみの重点がありました。原作後半に深まるあきらの陸上への未練を、アニメではすっきりと簡素化する一方で、ヴィクトル・ユゴーの一文字の逸話や、勇斗から教わる約束といったオリジナル描写を込めて、あきらの心の赴く対象を適切に書き出すことに成功しています。

 この物語は、あきらがガーデンで一時的な雨宿りをし始めた事がきっかけで始まった話です。あきらの秘めたる想いを伝えてからは、店長も「日の当たる場所」への憧憬を抑えきれなくなりました。そうして店長が、若き日の自分自身との約束に向き合う様を見て、あきらも自分の心の向きを自覚し、元へ戻っていく…そんな話なのです。アニメで映し出された景色は、2人にとっては休息でしかなかったのです。

 アニメ「恋は雨上がりのように」は、そんな何気ないひと時を美しい絵、静かな音楽、感情を滲ます役者、不可視なものを可視化する演出によって彩った素晴らしいアニメーションであると思います。

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