こんにちは、8時間は眠らないと頭が働かないワタリ(@watari_ww)です。
今回は「シュレック」シリーズで有名なCGアニメーションスタジオのドリームワークスがユニバーサル・スタジオの傘下となってから初めて発表した「ボス・ベイビー(原題:The Boss Baby)」の感想を述べます。
世界の裏側を覗き見ているような気分になれる
(C)2017 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
- 赤ちゃんはベイビー社という会社が供給している商品
- 赤ちゃんは基本的に家庭へ送られるが、中には特別な個体もおり、選別された子は社員として働いている
- 社員全員が赤ちゃんのベイビー社はテクノロジーも規模も飛び抜けていて、世界の赤ん坊市場を牛耳っている
- 市場リサーチのために、他所の家庭の赤ん坊になりすまして潜入することもある
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毎シーンが見せ場
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登場シーンからして、ノリノリの音楽リズムに乗ってダンスしながら家にやってくるのですが、赤ちゃんの幼い体型には似合わないクールな動きに目を見張ります。インターホンのボタンに届かないから、きちんと伸ばし棒を使ってボタンを押す描写もキュート。
自分が特に気に入ったのは、乳幼児向けの遊具を活用しながら、ティムと激しい喧嘩を繰り広げるシーンですね。赤ん坊は銃や筋肉を使ったアクションはできないけれど、それを逆手にとってかわいらしいアイテムを意外な形で使って笑わせてきますし、アイデアに満ち溢れた映像には驚かされました。
子供の頃、自分も使っていたような足で漕いで運転する車を使ったアクションシーンは、さながらスパイ映画のようなクールなビジュアルですが、下から覗くとやっぱりただの玩具というあたりで笑わされます。
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また、ボス・ベイビーと家庭内でのポジションを巡って対立する少年ティムも、その豊かな想像力を用いて家の中の物を面白く使っています。床に転がっている車の玩具をスケボー代わりに使ったり、庭の木の上に舟形の秘密基地を作って船長ごっこに興じたり、自作の目出し帽を被ってニンジャになりきったりと、こっちまで子供の頃の思い出が蘇るような創造性です。
彼が繰り広げる想像もまた、映像のダイナミズムに一役買っています。自転車の練習や他人との喧嘩は危険な冒険や激しい戦いになり、親から課せられた謹慎処分は檻にでも閉じ込められたような気分になります。新しく来た赤ん坊に自分の立場が脅かされる状況は、ティムにとって何よりも耐え難いものであり、それを解決すべくボス・ベイビーとの衝突に発展します。
子供にとっては手すりは滑り降りるもの、伸び縮するゴムは発射機、人形は喋りかけてくる友達。そんな子供の世界をティムの目線から次々と経験できるのはとても懐かしくワクワクさせられました。
期待以上でも以下でもないストーリー
以上述べてきた通り、基本的には観客を退屈から遠ざけてくれる映画に違いありません。赤ん坊が確たる人格を持っている奇異な設定、ボス・ベイビーやティムの動きと振る舞いは、面白いものばかりです。
そんな本作に唯一自分が感じたウィークポイントは、話の筋そのものは道徳の教科書に載っていそうなぐらいにありふれたものであるという所だと思います。ストーリーは、ボス・ベイビーがやってきた事で親からの関心を得られなくなったティムが奮闘する前半の時点で、オチがどうなるかわかってしまうぐらい平易です。
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ふんだんに盛り込まれたギミックやキャラクターの動き、勢いある演出に、子供目線を派手に描いた映像などがほぼ毎シーン続くといってもいい一方で、ストーリーにはあんまり工夫がないように見受けられました。
破綻している部分は無く、伏線をきれいに回収していく爽快感や家族愛を扱ったテーマに一定の満足感はあるのですが、それでも意外性は乏しいです。
ちょっと横道にそれますが。「ボス・ベイビー」と似た作風の映画で「レゴムービー」が思い浮かびます。これは登場人物も世界も全部レゴでできていて、毎シーンそれらを活かしたアクションやギャグ、ウィットに富んだ台詞の応酬で埋め尽くされているため、退屈とは無縁の映画です。アイデアを詰め込んでいる点で、本作と「レゴムービー」は非常に近い作風であると思っています。
ただ、「レゴムービー」には終盤に観客をあっと驚かせるとあるサプライズがあります。それがテーマ性と結びつき、観客にもわからぬ形で張り巡らされていた伏線を回収していく様は非常に面白かったです。あのクライマックスには度肝を抜かれたと言ってもいいです。
それと比較してしまうと「ボス・ベイビー」の話って、観客が想像できる範疇のものでしかないような感じは否めません。期待を裏切るようなことはしないと同時に、期待を上回ることもないのです。
とはいえ、前述した作品世界とキャラクターに関してはとても高い娯楽性を誇っていると言えます。話のトーンがそもそも違うので不毛な比較ではありますが、同時期公開の「リメンバー・ミー」と比べると、劇場で笑い声が漏れた回数はこっちの方が上です。
軽い気持ちで観に行く映画としてはなかなか高品質な作品ですので、おススメです。ちなみに、エンドクレジットの最中と後にはオマケはありますので、ご覧になる際はご注意を。
以下ネタバレになります。
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限られた愛の総量
本作におけるティムを突き動かすマクガフィンとなったのがボス・ベイビーの語る愛の総量。
乳児用遊具を愛に見立て、愛には限りがあることを力説する彼は、テンプルトン家にやってきてからというもの、ティムに向けられていた両親の関心を奪い去っています。
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ボス・ベイビーはともかく、赤ん坊は基本的に無力な存在であるが故に、誰かに構ってもらえないとまともに生存することすらままなりません。自分で食事をとれない、排泄できない、移動もできない、感情を抑えられない等の諸要因が、テンプルトン家の両親をティムから引き離し、ボス・ベイビーに付きっきりにさせていました。
兄弟姉妹の出てくるお話では必ずと言っていいほど、兄弟間の格差やコンプレックス、それによる葛藤や闘争が取り沙汰されます。漫画で言えば「NARUTO」におけるサスケとイタチは、少なからずお互いに差し向ける感情が行動の動機になっていたと思います。
映画だと「スタンド・バイ・ミー」では、主人公の少年が優秀な兄の死去をきっかけにして、親から自身に愛情を向けられない状況に少なからず苦しむ描写があります。
親からの愛情や周囲からの関心を集めるにあたって、兄弟が互いに敵視したり、鬱屈した感情を抱いたりするという物語はけっこう定番のパターンのようです。本作もそのパターンを踏襲しています。
ティムとボス・ベイビーは、ベイビー社の競合ワンワン社の新商品を探る中でお互いに仲を深めていく…という展開でした。上でも言ったように、2人がお互い別れるために協力関係を結んだ時点で、このオチは簡単に読めてしまいます。最終的には、愛には総量は両親からの「2人とも愛している」という言葉によって否定され、ティムは仮に存在したとしてもボス・ベイビーにそれを譲る無償の兄弟愛を提示しました。
当然のことながら、序盤にボス・ベイビーが愛の総量を説明していた玩具とは異なり、人間の感情には定まった形も量もありません。一見ボス・ベイビーに立場を追われたかのように見えたティムにしても、ワンワン社の会社見学では両親から赤ちゃんが来てから構ってあげられていない旨を伝えられています。ティムとボスの演技ではあったものの、両親は2人が仲良くしている様子を喜んでもいます。別に愛が奪われていたわけではなく、赤子の世話の忙しさで余裕がなくなっていただけなのです。
一方で、ボス・ベイビーは生まれた時から家族がいないある意味孤独な存在でした。愛についてティムに説教したかと思えば、実は本当の愛を知らない身であり、家庭での生活も仮初でしかない。そのことを語る彼の表情は悲しげ。ティムは、そんな彼を見て思うところがあったのでしょう。
ボスは生まれながらに会社勤務をしていたから、ティムのように想像力を働かせてはしゃぐことを知りませんでした。れっきとした社会人であるボスにとってティムは見下している対象だったはずですが、子供としてはティムの方が先輩であり、遊び方をレクチャーするその姿はやはり兄なのです。
冒険を通じて距離を縮めると、ボス・ベイビーはティムを他人事には思わず、愛情を示すようになりました。飛行機で怯えるティムの手を握り、フランシスとの対峙に際しては兄のことをテンプルトンではなくティムと呼んでいます。ティムは僕のパパとママではなく僕たちのパパとママと口にしていて、2人はいつのまにか家族になっていたという流れは、ベタながら心温まりました。
ティムは、「弟は要らない」と言い、自分が家庭内で優先されることを何よりも重視していましたが、家族を持たざるボスと出会い、過程で他人を優先することを知り、成長していき
ました。愛情は如何様にも変化しうるし、数限りを超えて分け与えることが可能である、といった背後のメッセージはとても道徳的です。
まとめ
ユーモアに満ち溢れた映画でありつつも、道徳的なメッセージを含ませており、完成度の高い作品だと感じました。
難癖をつけるとするなら、物語における決定的なサプライズが不足がちで、深みを期待する人の鑑賞には堪えられないであろう部分です。毒にも薬にもならないのです。
とはいえ、劇場で鑑賞すると子供が多めで、笑い声が頻繁に漏れていましたので、娯楽性は突き抜けて高いです。筆者も何度も笑わされましたし、大人にしかわからないエルヴィス・プレスリーネタが含まれていることからも、子供だけじゃなく全年齢に向けた手堅い一本であると思います。
また、吹き替え版のクオリティにはとても驚かされました。ボス・ベイビー役のムロツヨシはおっさんながら愛嬌のあるボイスがとてつもなくマッチしています。ティム役の芳根京子にしても、見ている間、少年声が得意な女性声優が演じているのかと思い込んでいたぐらい上手いです。両親役の乙葉、NON STYLEの石田明も同様、エンドクレジットでやっと気づいたほど。
宮野真守のエルヴィス・プレスリー祭りは最後の最後に笑わせてもらいました。劇場ではどよめきが起こっていましたね。
以上のように、非常に楽しめる作品でした。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
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