アイキャッチ画像: (C)2018 映画「3D彼女 リアルガール」製作委員会 (C)那波マオ/講談社
こんにちは、ゲームは1日8時間やりたいワタリ(@wataridley)です。
今回は佐野勇斗&中条あやみW主演の同名漫画実写化映画「3D彼女 リアルガール」の感想です。
今作を観たきっかけは何と言っても中条あやみにあります。スクリーンで彼女を目にするのは「チアダン」「セトウツミ」以来となりましたが、その美貌はテレビではなく特別な空間である映画でこそ映えるものだと思ってきました。
毎シーズンお決まりで製作される少女漫画が原作のいわゆる「スイーツ映画」とはいえ、大舞台であることに変わりはありません。
また、予告編で流れた佐野勇斗の自信なさげなオタクという役所にも興味がありました。
映画では、スクリーン越しに放たれる2人の魅力とオタク×美女が織りなすラブコメディに大いに楽しませてもらいました。
それだけに、後半になるにつれて粗が目立ち出したのは勿体ないと思ってしまいました。前半に視線を画面に引っ張られていたのが嘘のように、最後には集中が切れた状態でエンドロールを眺めていました。
どうしてそうなったのか?を含めて以下にネタバレありの感想を書いていきますので、よれしければお付き合いを。
57/100
目次
コメディからシリアスまで振れるキャスト
佐野勇斗、中条あやみのファンは絶対に観ておくべきだと強く推せるぐらい今作の彼らはチャーミングでした。
この手の「オタク」を取り扱った映像作品というと、自分は「電車男」をまず最初に思い出します。人と接するのが不得意で視線が下を向きがち、でも話しが合うと早口で専門用語を連発する、といった典型的オタク像は、時代が時代なだけに、「電車男」の時に通用しても、今になってそれをやるのは極めて危なっかしいだろうと思っていました。
それを今作では、佐野勇斗が担うことにより、 かなり受け取りやすい表現になっています。
彼は「ちはやふる 結び」や「羊と鋼の森」で観たように、相変わらず整った顔立ちです。今作ではその顔にぎこちない表情を浮かべ、変わった口調でオタクらしさを演出しています。口下手であるが故、声の調子は跳ねるべきでない時に跳ね、意識する相手の前では上ずってしまう。そんな様子に人付き合いが苦手であるという情報が織り込まれていました。オタク同志と語らう際にはボソボソ喋りが保たれたまま雄弁な口ぶりになっていますが、色葉と一緒にいる時やえぞみちに独り言を言う時とまるで毛色を変えてきており、語り方のスイッチまでも徹底されています。
お陰で彼のことがたしかに人付き合いの苦手な高校生に見えましたし、整美な顔立ちがそれを一般向けに中和して観客に届けてくれていました。
(C)2018 映画「3D彼女 リアルガール」製作委員会 (C)那波マオ/講談社
そして、スクールカースト上位の美女 五十嵐色葉を演じた中条あやみ。彼女なくしてこの物語のときめくような華やいだ空気はありえなかったでしょう。外国風の大人びた顔立ち。すらっとしたスタイル。ニーソックスにミニスカートなどという特殊な制服や周囲から羨望の眼差しを向けられること間違いなしの私服の見事なまでの着こなし。男子の欲望の権化のような存在を、こうも完璧に再現してしまえる彼女にもはや敬服するしかありません。
正直なところ、佐野勇斗が器用な演じ分けを見せる一方で、中条あやみは「草食系の男をグイグイ引っ張る」単純な役柄だったこともあってか、お芝居の面では技量を発揮するシーンは少ないです。
しかし、視覚にアピールしてくる幸福度が飛び抜けており、キャストの中では彼女が最も魅力的に映っていました。衣装のバリエーションもあり、もしも中条あやみがカノジョだったらという妄想を煽るシチュエーションもある。今作は紛れもなく、ファン必見の1作です。
筒井の友人役を演じていたゆうたろうも、高めの声から生み出される独特な言動で彼との親密な間柄や独自の世界観を表現しており、面白い掛け合いを見せてくれました。自分の目にはファニーに映っていたはずの彼の猫耳も、後半は完全に慣れてしまいました。
「羊と鋼の森」「未来のミライ」に出ていた上白石萌歌も、こちらでは俗っぽい年頃の女の子という役柄で新鮮でした。ただ、本来持っているはずのフレッシュなオーラを包み隠し、ひたすら地味でどんくさいようなキャラクター。そのお陰で主演2人に当たるスポットライトが一層まぶしくなっていたと思います。
自分がこの映画でとくに唸らされた俳優は「ちはやふる」シリーズでも出演していた清水尋也です。彼はシャープな顔立ちに高い上背から、押し黙っていると怖い印象を与えがちなので、それを活かしてか「ちはやふる」でも主人公につんけんとした態度を取るライバルでした。
今作でも、前半部分では高圧的な態度を取ってくるいかにもスクールカースト上位の気にくわないヤツといった立ち位置でしたが、後半にはコメディリリーフ兼友人に一転する中々激しい変化を見せるキャラクターになっています。
もし自分がこんな役任されたら役作りに困惑しそうなキャラクターを自然と演じていたことに彼の技量を感じました。いじめっ子から主人公の仲間に、恋のライバルから背中を押す側に、というジェットコースターの乱高下のような立ち回りが、急ではあると思いつつも、彼が後半に差し掛かるにつれて滲ませる愛嬌といったもので思いの外受け入れやすくなっているんですよね。
10代のうちからこれほど技巧派な面を見せられると、これからますます期待せずにはいられない若手俳優だと思いました。
登場シーンが限られているので贅沢な不満となりますが、わきを固めていた竹内力、濱田マリ、三浦貴大は安定感はあったものの、やはり今作だけでは持て余している部分もあるかなと思います。
(C)2018 映画「3D彼女 リアルガール」製作委員会 (C)那波マオ/講談社
良質なコメディ映画部分
今作は、前半のオタクと美女の格差恋愛を軸にした騒動に、面白さの大半が詰め込まれています。
この手のスイーツ映画にありがちなくどいほどの台詞説明も、アニメーションキャラクターのえぞみちに託すといった工夫に成り代わっていました。また中条あやみが常に画面を潤してくれており、退屈する時間が中々限られていた印象です。
自己中心的世界からの巣立ち
筒井にとってのイマジナリーフレンドたるえぞみちがこの映画における筒井の精神的成長を表していたのが第一に面白かったです。
筒井が観ていたアニメの登場キャラクターである彼女は、さまざまな筒井の情報を与えてくれていました。
- 人権が湯のみ以下だったという「これまで」
- 外の世界に接することで生じた「今」の葛藤
- 内側にこもっていた彼が外へと飛び出していく「これから」
①の情報については、えぞみちの存在そのものが筒井がアニメオタクであるということを強く印象付けると同時に、彼女との「独り言」から彼が今まで世界との関わりを出来るだけ避けてきた事実を伝えてくれていました。しかし、そんな彼でも内に秘める親切心から人助けをしていました。それに対して全面的に肯定する姿勢を見せておらず、えぞみちは彼を堕落へ誘うメフィストフェレス的な面も持っていることが暗に示されています。
②は、色葉からのアプローチに戸惑い、苦悩する彼の心情です。何でもかんでも友人に話すというわけではなく、独りで苦悩する姿は滑稽でした。それに、年相応の男子の悩みといったものをイマジナリーフレンドへの言葉にすることで、とても青臭く、筒井が身近な存在に思えます。
前半部分ではこれら①と②の情報を示すためにえぞみちが頻出していましたが、色葉との恋愛関係がうまくいくにつれて彼女は影を薄めていきます。キャンプのシークエンスでは完全に出てきていません。
③は、筒井自身が脱却すべき対象としてえぞみちを捉え、家を飛び出す終盤のやり取りで披露されました。アニメーション=2次元への傾倒を成長のためのイニシエーションと位置づけ、えぞみちとここで明確に決別するわけですね。
アニメーションと実写を融合させる手法自体はこれまでも何度か試みられてきた手法ではありますが、登場人物をアニメ好きのオタクと設定し、表現されるアニメキャラクターを精神状態の表象とし、内側から外側へ飛び出すにあたっての通過儀礼として用いている点において、意外と類を見ない演出ではないかと思います。
(C)2018 映画「3D彼女 リアルガール」製作委員会 (C)那波マオ/講談社
異文化交流的コメディ
オタクだからといってそのものを笑いの種にするのではなく、絶妙に筒井と色葉の噛み合わない様相を笑いとドラマに繋げていた脚本は好印象でした。
オタクであることが露呈してはいけないという危機感を煽る家デートのシーンは、とりわけ面白かったです。めでたい装いで項垂れる筒井のシュールな姿に、部屋に言及されて「今日はない」という無茶すぎる言い逃れで誤魔化そうとする家族、それらを気に留めずに俊敏に目的地へと足を運ぶ色葉、それを食い止めようと「息子より大事なはずの湯飲み」を投げる母。色々と目につくものが多いですし、バレてしまう時の竹内力と濱田マリの狼狽した様子は、良質なコントを見ているようでした。
ほかにも意気投合した筒井と綾戸と伊東の3者が異国語のような弾丸トークを繰り広げるシーンは、異様な熱気を感じましたし、正面から捉えた真剣な表情が微笑ましいです。単に早口で喋っているだけというわけでもなく、喋っている内容もよく聞くと制作者へのイチャモンといったネット掲示板にありがちな拘りだったり、円盤を購入することで貢献している感覚を口にしていたりと、こんな人いるなと思わされるものなんですよね。語っている彼らのマジな表情に、リアルな話の内容がしきりに笑いを誘っていました。
シチュエーションやセリフでの見せ方以外にも面白いアクションシーンも混ぜ込んでありました。色葉を守る際の筒井がミツヤにかける流れるようなバックハグ・壁ドン・顎クイのコンボ攻撃は、少女漫画的必殺技をまさかここで使うかと意外でした。
オタク男子のストーキングにときめく異常な馴れ初めに代表されるようなシチュエーションコメディとアクション、そしてユーモアあるセリフなど多様な持ちネタを一定間隔で撃ってくるために、退屈する時間は本当に少なかったです。これらに声を漏らして笑うこともあったぐらいです。
(C)2018 映画「3D彼女 リアルガール」製作委員会 (C)那波マオ/講談社
しかし、笑えるラブコメディとして成功したと思っていた矢先に、どんどん雲行きが怪しくなってしまいました。
まるでスイーツ映画の呪縛に足を取られたかのよう
前半は全くと言っていいほど深刻な不満点はありませんでした。そのままの勢いでエンドクレジットが流れていたら、自分はこの映画にスコア70点以上はあげられたことでしょう。
上記のコメディ演出が引っ込むキャンプのシーンを境に評価点がどんどん減っていきました。
具体的に言えば、コメディという最たる武器を放棄し、脈絡のないシリアスを展開し出したことが不満でした。
謎の告白代行
筒井のオタク仲間で唯一無二の親友 伊東。彼が綾戸に惹かれゆく様子は、初対面時にちらつかせていましたし、綾戸が筒井に好意を持っていたことを考えても、彼らが恋のひと悶着を起こすであろうことは想像がついていました。
そのドラマが、宿泊イベントにて急展開しました。少女漫画で当て馬役が存在する以上、振られるイベントは描かねばなりません。そして、誰もが幸せになれるように気を遣う必要もある難易度の高い仕事でもあります。
そこで、今作が描写したのが、伊東が綾戸の代わりに筒井に告白し、間接的に綾戸が振られたらしいようなシーンでした。この文を書いている自分も正直言って意味がわかりません。
別人が告白するなんともいえないシーンの裏側には恐らく思いやりがあるのだと思います。百歩譲って代理告白が伊東による綾戸への思いやりから出た行動だとしましょう。
しかし、この過程が全くの描写不足であるために、急に奇行に走ったようにしか見えませんでした。筒井は綾戸の想いに全く気付く素振りを見せぬまま、伊東に返事をしているだけなんですよ。綾戸は振られていないのに、何故か振られたことにされて処理されてしまった光景に、笑いは笑いでも苦笑いしてしまいました。
しかも、このシーンの後に伊東と綾戸の関係性の変化は全く描かれていません。この行動を通して強化されたのは筒井から色葉への思いの丈だけであり、綾戸と伊東は完全に引き立て役でした。
少女漫画の複数のキャラクターの恋愛を2時間以内に決着させることが至難の業であることは重々承知しております。ただ、スイーツ映画のお決り的に無理やりに原作の展開やドラマを入れ込んで、主人公カップルのためだけに存在しているかのようにキャラクターを描写してしまうやり方は、映画の質に大きな影をおとすだけだと思いました。
笑いも涙もない最後の30分が辛い
今作で最たる欠点は最後の30分のとってつけたかのようなシリアスなドラマです。
「君の名は。」を彷彿とさせる時を経ての別れ人との再会。これが、きちんと連続的なドラマを積み重ねた末の展開ならば、なんと感慨深かったことでしょう。
この映画はぶつ切りにこの終盤の展開に突入したがために、いきなり別のドラマを見せつけられているような気分になりました。
そこにあるのは前半にあった多様なコメディでも、筒井のオタク的言動でも、そんな彼をちょっと強引に引っ張る色葉でも、賑やかなわき役でもなく、唐突な記憶喪失劇。間淵先生の「もう彼女は君の知っている色葉じゃない」という台詞が「もうこの映画は君の知っている3D彼女じゃない」に聞こえなくもない変貌ぶりです。
たしかに、前半部分でも色葉が病院に世話になっている状況は「たいしたことない」と誤魔化そうが、明らかに不自然でしたし、付き合い始めの「半年間よろしく」という台詞にも違和感がありました。家デートの時に両親に告げた冗談も、冗談ではないとはっきりわかりました。
しかし、上記のものはあまりに曖昧でどうとでも取れるようなヒントです。せいぜいわかるのは病気だろうとか、頭の調子が悪いという程度ではないでしょうか。筒井は、彼女の異変に気づけなかったことを悔いていましたが、誰がどう考えたところで終盤の答えに行き着くことは不可能でしょう。
前半徹していた底抜けに明るいコメディは色葉が余命を楽しむためのものといったニュアンスを匂わす台詞が友人たちから発せられていました。だとしたら、2回目の鑑賞時にあれらのコメディに素直に笑えなくなってしまいます。
このように、布石の打ち方に問題があり、綺麗にラストに繋がらないため、納得して追うことができませんでした。
繋がりが弱い結果、入り込むことができないうえ、そもそも終盤のドラマの出来自体が特筆すべき点もなにひとつない記憶喪失モノであるため、評価しようがないです。相手の弱みに付け込んで結婚とか、記憶喪失でかつての恋人を思い出せないとか、ありきたりな要素の寄せ集めでしかないのです。
前半のコメディパートにきちんと種子を撒いていたならば、後半になってからしっかりと実をつけたのかもしれません。コメディとシリアスの落差にも唐突感ではなく意外性を帯びた感動があったのかもしれません。
しかし、全てが御破算でした。展開は原作通りなのかもしれませんが、愚直に2時間に圧縮するのではなく、映画向けにコンバートすべきでした。
以上のように、少女漫画実写化の悪癖が後半になってから露呈したため、自分の中での評価は滝のように落ちていきました。折角似顔絵のかわいいイラスト付きのエンドロールも冷めた目で見て、劇場を後にすることになるとは、前半ではまるで思っていませんでした。
(C)2018 映画「3D彼女 リアルガール」製作委員会 (C)那波マオ/講談社
まとめ: キャストの魅力と商業的少女漫画実写化の限界を一度に見た
今作は後半に露呈したスイーツ映画の悪癖と、前半部分で演出やコメディと噛み合ったキャストの演技を体内に宿したまことに不思議な作品です。
前半部分だけで評価するならば70点、後半を見てしまった以上は減点して50点台というところに落ち着いてしまいました。
とはいえ、前半の明るくて面白い作風は、純粋に楽しんでみることができましたし、佐野勇斗と清水尋也というホープを見初めるきっかけになりました。かねてからスター性に目をつけていた中条あやみは、今後どんどん活躍の場を伸ばしてほしいと、いっそう思うようになりました。
この手の若年層の女性向け映画は、需要がある限り毎シーズン作られていくのだろうとは思います。そこに大胆にもメスを入れて、1作の映画として高い完成度を持つ作品が出てきてくれたら、それを皮切りに映画界はもっと盛り上がるでしょうし、スイーツ映画などという揶揄を含んだニュアンスも払拭できるはずだと思います。
不満だらけではありましたが、前半は確実に楽しかったです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!