少年漫画の神髄を究めた中国製アニメ映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』の魅力を語る【ネタバレ無】

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アイキャッチ画像: (C)北京寒木春華動画技術有限会社

こんにちは、好きな能力バトル漫画は『うえきの法則』、ワタリ(@wataridley)です。

今回は『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ/THE LEGEND OF HEI)』という中国のアニメーション映画を観たので、その感想をネタバレなしで書いていきます。

▲アクションシーン満載の予告編。

なぜネタバレなしなのかと言うと、少しでもこの作品の魅力が広まればよいと思ったからです。つまりそれだけ面白いということでもあります。

今作は公開規模が小さい、どころか全国でも池袋HUMAXシネマズをはじめとした3館でしかやっていない(記載時点)上に、上映回数も限られています。観るにはかなりのハードルを飛び越える必要があります。

しかし、それを飛び越えてでも観て良かった。それが自分の率直な感想でした。今これを書いているのも、すっかりこの映画の虜になったことの証左でもあります。

繰り返しになりますが、ネタバレはせず、いかにして今作が面白いのかを書きます。よろしければお付き合いください。

▼今作のネタバレありの感想・考察を書きました。(2020年3月1日追記)

 

▼日本語吹き替え版『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』が正式に発表。(2020年8月27日追記)

 

一本完結で活劇を描いたアニメ映画は今や珍しい?

今年に入ってから『プロメア』というアニメーション映画にハマり、映画館で12回鑑賞しました。この作品の細かい魅力は、過去に語っていますので、そちらを参照ください。ポップなカラーで描かれた個性的なキャラクター達、駆け抜けるような物語展開、豪勢な演出、派手なバトル。それらの魅力に取り憑かれて今に至ります。

 

ここまでハマった理由といえば、自分がジャンルとして「活劇」を好んでいるからです。

今の日本でメジャーな人気を得ている創作に、週刊少年ジャンプなどの少年誌に連載されている漫画は外せません。そしてその多くは、バトルとアクションを駆動力とした構造を持っています。強敵に勝つかどうかが読者にとっても登場人物にとっても大きな関心ごとであり、その激闘の模様もド派手な二次元表現で繰り出される。ページをめくっていくと、熱くなった掌から汗が滲んでいくものです。そういった作品はたいてい人気が出れば映像化され、メディアを跨って作品が展開する所謂メディアミックスにより、日本のコンテンツ産業において絶大な存在感を持っています。好き嫌いはともかくとして、全くその類のコンテンツを見聞したことがないという人は恐らくいないのではないかというほどに。

ジャパニメーションという言葉が登場して久しくなっていますが、人気作品を挙げていくとやはりアクション要素が含まれているものは多く、映画においても毎年毎シーズン何かしらの劇場版作品が公開されている状態です。

一方で、ひしめき合ったそれらに対して一種のマンネリズムを感じることもあるでしょう。基本的に、日本のアニメーション映画は「原作もの」が多く、スタジオジブリ作品を除けば、興行収入10億越えを果たした完全オリジナルアニメーション映画は極端に限られてきます。「原作もの」がヒットすること自体には不満はないのですが、やはりテレビシリーズや漫画、あるいは人気キャラクターというアイコンを前提に敷いているために、1本の映画として片手落ち状態に陥ってしまっている作品も数多く目にします。こうした理由から、自分は昨今のコナン映画には懐疑的な目を向けてしまってもいました。

オリジナル作品で10億越えを遂げた代表的な例は、新海誠監督の『君の名は。』『天気の子』、細田守監督の『バケモノの子』『未来のミライ』などが挙げられます。ところが、こうした作品は恋愛や家族といった普遍的な要素が前面に出ていたりして、少年漫画にあるような勝ち負けを競うバトル要素は見られません。それ故に、日本でヒットを飛ばして海外に、という流れを生むことに成功しているとも言えます。

少年漫画のような活劇重視の作風は日本では絶大な人気を得ていて、メディア産業でも目立ったイメージを持つものですが、意外にも映画の単体作品でそれを試みる動きはあまり目立たないのが実情です。そういう潮流の中で先述した『プロメア』がヒットしたのはかなりセンセーショナルな出来事だと思います。

そこにきて、この『羅小黒戦記』。少年漫画らしい活劇を1本の映画でやりきっているという点において、とてつもなくチャレンジをやってのけ、しかも上質な作品でした。

 

少年漫画を1本の映画に仕立て上げた作品

『羅小黒戦記』の何が面白いのか。それは、やはり少年漫画作品が何十巻もかけてやるような話をきちんと1本の作品としてまとめあげ、それを緩急のバランスが取れた100分で駆け抜けてくれるところです。

 

ひと目で個性を掴ませてくれるキャラクターデザイン

ジャパニメーションに慣れきってしまうと、海外産のアニメーションに対する抵抗感は多少なりとも感じるものでしょう。外国で可愛い、格好いいとされるものを見聞きして、疑問符を浮かべる経験は誰しもあるもので、そうしたズレは集中を妨げる要因として、なるべく避けたいもの。その点、ピクサーやディズニーのアニメーション映画に出てくるキャラクターって世界的にウケるユニバーシティを内包していて凄いと思うものです。

『羅小黒戦記』に登場するキャラクターには、そうした異文化との摩擦をまるで感じさせることなく、生き生きとした作画と相まってどんどんのめり込んでいくことになります。

その筆頭が、ポスタービジュアルに映っている黒猫のシャオヘイ。一見すると極端に低い頭身と度を越してつぶらな瞳にエキゾチックな印象はあるかもしれませんが、本編では媚びすぎず、しかし可愛いという絶妙な塩梅で形作られたキャラクターです。人間に化けた際には、小柄な体躯から伸びる短く丸々っとした手足、そして頭から生えている猫耳というシルエットには、可愛らしいマスコットの要素が巧妙に取り入れられています。つぶらな瞳や眉の動きで喜怒哀楽がバッチリ掴める丁寧な作画と相まって、この子の行く末を親の気持ちで見守りたくなること間違いなし。

そんな彼が居場所を求めて旅する中で、登場する数多くのキャラクター達も、その装いと立ち振る舞いが多彩で見ていて飽きません。仲間想いで優しい性分に見える一方で危うい面も隠し持つ兄貴分、一見冷静沈着な手練れなのにどこか間の抜けている執行人など、背景と性格が明らかになっていくにつれて、目が離せない存在になっていました。言葉で語らずして、表情や行動によって紡がれていく各々の変化や葛藤は、キャラクターを奥行きのある存在に見せています。そしてなにより、現実ではなかなかお目にかかれない長髪の秀麗眉目な男性にデザインされているので、自分も含めて女性層にとてもよく響き渡ることでしょう。

主要人物ではない周辺のキャラクターに至るまでも、僅かな登場時間で外見、仕草、台詞ではっきりとした性質を伝えて、キャラ立ちしているため、どのキャラにもファンがつくのではないかと思うほどです。キャラクターが身に纏っている衣装も漢服をベースに創作チックな見栄えのいいデザインにまとまっているので、『NARUTO』『るろうに剣心』あたりの中国版かのように、すんなり見ることができました。

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スピーディで驚きに満ちた能力系バトルアクションの作画

今作は孤独な黒猫の妖精シャオヘイが故郷を追われ、居場所を探し求めるロードムービー要素もあるのですが、その道中で繰り広げられるバトルシーンの数々が大きな見どころになっています。

今作のバトルシーンのひとつがYouTubeにアップされています。最初の方に載せた予告編とこれに少しでもピンと来れば、今作は頭から尻尾まで楽しめることでしょう。

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バトルを描いた劇場アニメは多かれど、いずれも満遍なくクオリティを保っている作品は、なかなか見られません。そんな中で、『羅小黒戦記』におけるバトルシーンは、たとえ相手が名無しの敵であったとしても、抜かりなく機敏に動き回ります。国内のアニメで言うところの『NARUTO』の作画が突出した回に匹敵するレベルのものが、100分ちょっとに詰まっているのです。

そのバトルの内容にしても、フィクションなりの凝ったギミックが逐一顔を見せるので、感嘆とさせられます。今作における代表的なアクションが「鉄を操る」というもの。正直耳にするだけでは、能力としてはありきたりで他の作品で既に掘り尽くされた印象を受けるのですが、メインであるバトルが進行する最中のサイドの鉄の描写がとても丁寧。能力者の立ち回りと絶妙に噛み合ってアクションを繰り広げる様は、息の合ったコンビのようで、視覚的に見応えがあります。

ついていくのもやっとなハイスピードアクションの中で意外な運用方法をさらっとお披露目され「そんなこともできるのか」という驚きがありつつ、「鉄以外のものは操れない」という基礎はしっかりと貫徹しています。故に、「能力バトルもの」のジャンルとしてかなり高水準で、日本の劇場アニメーションでもここまでやっているのはなかなかお目にかかれないのではないかと思わせられました。

また、王道の少年漫画らしくバトルは順当にインフレしていきます。クライマックスになると、人智を超えた超能力者同士が一大スペクタクルを繰り広げ、目で追いかけるのもやっとのアクションが目白押し。観終えた後には、熱いバトルに体温が上がるので、今の季節の外気がいっそう冷たく感じられるのではないでしょうか。

上記の能力以外にも色々と凄い能力者たちが登場し、尺の都合もあって、さらっととんでもないことをしでかしてくれるのですが、それもまた「能力者が存在する世界」という作品世界の奥行きに貢献していました。よく知られた「固有の能力を活かして強敵を倒す」少年漫画の類型が好きならば、絶対にハマること間違いなしです。

ここまで述べてきたとおり、バトル関係の作画はとにかく高レベルであることに加えて、全編に渡って作画のクオリティが維持されているのも特筆すべき点です。通常、この手の見せ場が明確なアニメを見ていると、明らかにガス抜きと思われる個所があったりするものですが、この映画はそれが全く見られません。どういう製作体制なのかわかりませんが、手書きなのに安定していること自体にちょっとした感動を覚えます。

 

ハッとする演出、思わず笑ってしまうユーモアの数々

キャラクターはみな可愛らしく、格好よく、時折見せる隙もよし。バトルシーンの作画も豪快で、能力系バトルアクションのツボをしっかり抑えている。これだけでも抜群に優れた活劇なのですが、今作はそうした目立つ部分だけではなく、静かで緩やかな部分に至るまでも手を尽くして演出されています。

例えば、冒頭から主人公のシャオヘイが経験する和やかな空気を観客に見せてから、物騒な物音が一気に森にこだまするシーン。ここでは、可愛らしい彼の姿で観客の心が低空飛行になっているところに、大音量の音と数多の動物たちがパニックを起こす描写を差し込むことで、観客も焦りを感じます。それとは逆に、騒がしい戦闘描写から真逆の静寂に突入する場面もあります。襲いくる敵と味方の動きが忙しなく描かれた後に、1人の人間の足音が森の中で響く。

こうした緩急のギャップは、ジェットコースターで味わう恐怖と終わった後の安らぎにも近い体感です。とりわけ今作ではシャオヘイが経験する冒険の景色と、観客の心理状態が接近することで、より物語に没入させるよう機能しています。

その他にも、シリアスな戦闘シーンにおいてクスリとくるような仕草を取り入れたり、旅の道中もキャラクターの個性を活かした上質なユーモアで笑いを誘ってきたりと、細部に至るまでウィットに富んだ演出が冴え渡っています。前者は激しいばかりになりがちな戦闘シーンにおける緩急として機能し、後者は旅を通じて感じる心の安らぎがシャオヘイの心理的な変化にも関わっており、必然性もあります。この細かな演出は、ピクサーの『トイ・ストーリー』やディズニーの『ズートピア』などを引き合いに出しても全く負けていないと思えるほど巧みでした。

映像面だけでなくその演出面においても卓越しているものですから、そのうちこうしたアニメーション映画が中国からやってくる度に、上記のような大人気作品と並べて論じられることが近い将来ありえるのではないか、と本気でそう思わせられます。

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異なる民族や自然との共存を描いたドラマ

これまで語ってきたキャラクター、作画、演出は、いずれも視覚で捉えられる外見的要素であるため、人でいうところの「肉体」に相当します。一方で、今作は精神性においても映像に負けていないと言えます。

異民族同士の共和、文明化による自然破壊を題材にしていることで、観る側に単なる娯楽作品として消化させない、深慮なメッセージを与えることに成功しています。

今作の主人公シャオヘイは、人間による土地開発によって故郷の森を追われた妖精。人間と立場を違えた異種である彼は、それ故に人間に対する不信感も強く、広大な中国を孤独に生きていくしかできない身でした。そんな中、とある妖精との出会いが彼の未来を変えていく…という筋書きになっています。

言ってしまえば、妖精と人間は、現代社会において分断された国家、民族、人種といったもののメタファーであることに疑いようがありません。製作国の中国においても、新疆ウイグル自治区の問題をはじめとした民族の弾圧や、最近の香港における民主化運動の発端となっている自治権の問題に代表されるように、一方が一方の勝手に従わされるという動きは根強いです。そんな状況下で、言わば自国批判とも取れるメッセージが入れ込まれていることにも驚きですが、寧ろそのお陰で国境を越えて訴求力を持ち得る物語にもなっています。

まだ妖精の子どもであるシャオヘイには、人間は忌み嫌う対象であり、融和なんてありえない。そうした思考に変化がもたらされる過程が、前述の個性あふれるキャラクター、超能力バトルアクション、技巧派な演出といった強靭な肉体性で表現されているのです。

日本のアニメーションもいつしか出し抜かれてしまうのではないか。そんな嬉しい危機感を抱かずにはいられません。

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まとめ: 2019年本邦公開のアニメーション作品は『羅小黒戦記』なしでは語れない

今作は公開規模がきわめて小さく、日本国内では当初は3館程度という有様でした。現在では好評を受けて館数が増えていく兆しは見せ始めていますが、アニメーション映画にしては珍しく吹替版が製作されておらず字幕版のみで、その字幕も一部に誤記あり、縁が薄いフォント字故に見辛い部分があるなど、日本公開にあたってあまりお金がかかっているわけではありません。お世辞にもメジャーとは言い難い位置に立たされています。

ところが、面白いという評判を聞いて観に行ってみると、2019年日本公開のアニメ映画の中でも突出したクオリティでした。なおかつ、日本のアニメに慣れきった自分が、カルチャーギャップを感じることなく、すんなり見ることができたこと自体にも驚きがあります。『鋼の錬金術師』『NARUTO』などの人気アニメ、はたまた『もののけ姫』といったジブリ系の作品を彷彿とさせる設定でありながら、しかし決して模倣にはなっておらず、強固な独自性を確立しています。

黒猫が目立って描かれているポスターは、内容を具体的に伝えてはいないために、日本の客層には響かないかもしれません。しかし、観た後はこの黒猫にとてつもない愛着が沸いたことで、見る目も劇的に変わっています。よくよく見てみると、内容に即した良いポスターじゃないかと思っているぐらいです。それぐらいにキャラクター描写が秀逸でした。

上に述べたように、大立ち回りを主軸とした活劇を1本のアニメーション映画としてまとめきっているから楽しむことができたとも思います。原作の人気が出て、それがアニメ化され、そして劇場版に…という流れは商業主義の線上では紛れもない正義なのかもしれませんが、原作やテレビシリーズが普及していない地域や客層にまで広がっていきにくい性質も否めません。

対照的に『羅小黒戦記』は、万人に向けた1本の映画として作られています。厳密には基となったウェブアニメが存在しているらしいのですが、今作はそれを見ていなくとも問題がないように、1から10までを映画の中で完結させています。日本で商業的に成功した少年漫画のエッセンスを、映画の中で実現し、100分ちょっとで駆け抜けてくれる体験は他になかなかありません。

この後に続く作品がもっと見たい。そのためには、もっとヒットしてほしい。そう思わせるほどの魅力が今作にはたしかにありました。

公開館は以下から確認できます。パンフレットも販売を開始するそうなので、既に見た方もチェックしてみてはいかがでしょうか。(2020年1月下旬に販売終了済みとのこと。新版を待つべし。)

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