『ボンバーマンジェッターズ』51話感想

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第51話 ボンバー星最後の日

迫りくる終末を前にしているというのに過度に深刻になりすぎず、テレビを前に緊張感の抜けたジェッター星住民たちを筆頭に、出前を続けるツイストさんに、相変わらずモモちゃんを巡って啀み合うバグラーやアイン達といった、これまで通りの様子を見せるのがジェッターズらしい。ジェッターズやボンバーマンたちがなんとかしてくれると信じて残り続けるのは危ないので、念の為避難はしておいてくれとは思うが…。

シロボンを庇って先に倒れてしまったダイボンに続き、オヤボン達もダークフォースボンバーの凶弾に倒れていく傍ら、ボンバーニンジャがシャウトを先に行かせるファインプレーを見せる。ボンバーマンを題材にしたアニメなので、彼らの活躍もオヤボンやダイボンみたいに主役回を設けて見せてもらいたかったと思うぐらいだ。

オヤボンに「ありがとう」「またみんなでボムスターを探しに行こう」と言うシロボン。2話でバーディからマイティのバッジを受け継いでシロボンのジェッターズとしての日々が始まり、16話でシャウトに話したように好きだからこそボンバーマンを続けてこれたのだと回顧する。よりにもよってガング&ボンゴは「パンツやー!」がピックアップされるんかいと一瞬突っ込みそうになるが、間違いなく他の誰かの助けによってシロボンが一皮むけた大事な場面である。マックスを倒すべく「強くならなきゃ」と執念に取り憑かれたとき、オヤボンにも「みんな何かを背負っている。シロボン一人じゃない」と諭されたように、シロボンの周りには自分と同じく悩める誰かがいて、助けてくれたのだと振り返る。だからこの土壇場で、シロボンは独りで抱えていた「強くならなきゃ」という呪縛を過去のものにし、共に戦ってくれたオヤボンに戦いが終わったらまたみんなでボムスターを探しに行こうと声をかける。それはマイティにも出来なかったことであり、ここで彼はマイティの大丈夫を自分のものにし、ある側面ではマイティを超えてしまったと言える。だから賛同者無きメカードがいくら力でねじ伏せに来ようと、シロボンの渾身のシャイニングファイヤーボムに敵うはずがないのだ。本来なら兄マイティを奪った元凶とも言えるメカードに勝っても、復讐心に駆られることもなく、「自分のバッジ」を自慢気に見せつけるというのがまたシロボンらしい姿勢。

一方のメカードは敗北してもなお悪あがきを試みる往生際の悪さ。それを看過しないオヤボンとダイボンに妨害され、ボムクリスタルを求め続けた末路として自らが結晶体ボムエレメントと合体して閉じ込められてしまうというのはかなり皮肉の効いたオチ。ちょっとディズニーヴィランっぽさがある。

それでいてジェッターズ終盤の凄まじいところは、マイティが落命した元凶にして強力な合体ボンバーマンのボスとの戦いを前座にしてしまっているところだろう。そこで見せたシャイニングファイヤーボムは、シロボンが劇中で見せたボンバーマンとしての技の到達点として描かれるが、ダークフォースボンバーを打ち破るほどの威力があっても、この後の戦いではまるで役に立たないのだ。力比べの勝負でいくら強力無比な一撃であっても、ジェッターズの、シロボンの物語が追い求め続けたのは、そんなボムらしい破壊力ではないのだ。

だから、アイキャッチを挟んで繰り広げられるマックスとゼロの応酬は、ここまで見せてきた強くあることへの固執や威力の高いボム技といった要素をそのまま引き継いでその負の側面を再び印象付けている。マックスはオリジナルにより近い存在に打ち勝つことに固執し続けるし、ゼロはオリジナルを殺してしまった罪を背負いながらマックスを自滅覚悟で破壊しようとする。自らどんな卑怯な手を使ってでもと宣言していたゼロが、シャウトを人質に取ったマックスの卑怯な一手により敗北してしまうところまで含めてあまりに不毛な争いに映る。

バグラーに対して放ったボン婆さんの「わしらは自分達のやったことをこの子達に押し付けて死ぬしかないんじゃぞ」という自らも含めた叱責が強烈だが、マイティからバッジを受け取らず「泥棒らしく」去ってしまったミスティもその言葉を受けて罪悪を覚える様子。マイティが抱え、今やマックスとゼロに引き継がれてしまった心の闇は、(意図していなかったとはいえ)周囲のみんなが作り出してしまった。ボン婆さん達の言う後ろめたい過ちを知らないボンバー星の子どもたちが能天気に明日のことを考えられるのがせめてもの希望であり、バグラーのように懺悔の言葉を紡ぐのも大事なのだが、ここで次なる世代のシロボンを応援するという前向きさも必要なのだろう。

ようやくワープ装置のある場所までたどり着いた先でシロボンはゼロが勝ったことを喜ぶも、ゼロはもうすぐマックスに体を乗っ取られる衝撃的な展開。機体間のデータ移動とは唐突なルールに思えるが、ゼロはかつてマイティに背後から手刀を突き刺しデータを盗んだ。その反対にマックスはゼロの胸に手刀を突き刺し自分のデータを送り込んだのだから、嫌な形で筋は通っている。

自らを破壊するようにシロボンに頼むゼロと当惑するシロボンが掛け合うこのカットは、制御装置に伸びる階段を中央線としたシンメトリーの下に瓦礫が広がる中、肝心のシロボンとゼロの姿は粒ほど小さく描かれており2人の表情がよくわからない(シロボンが僅かに動くのみ)という不安な画でなんと40秒も続く。台詞が響き渡るという点で異なるが、『新世紀エヴァンゲリオン』の24話や『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』の演出を彷彿とさせる。画面が膠着することで、見ている側もこのシロボンの戸惑いにシンクロしていく妙な演出。この直後のシロボンの感情の爆発もこれがあるから極めて切実に感じられる。

このシーンでゼロもシロボンも両者から出てくる台詞が非常に凄まじい。ゼロはかねてより抱えていたマイティを殺した罪を理由に、シロボンに自らの後始末を請う。マックスが何らかの害をもたらす前に自分からそう申し出るのはマイティ譲りのゼロなりの正義感、自己犠牲的な精神性が顕になっていると言えるのかもしれないが、しかしゼロはかつてマイティの言葉を借りて復習に取り憑かれていたシロボンを戒めてもいた。今ここで一転して復習を果たせるという口実を与えて、最終的に自ら消滅するというケリをシロボンに委ねるのは、シロボンからすればあまりに狡く耐え難い。だからシロボンが「兄ちゃんは大丈夫だって言ったじゃないか」と混乱するのは当然のことである。当のシロボンはゼロとマイティを切り分けながらも混乱しており、ここでもゼロに対して言っているのか、マイティに対して言っているのか、混濁したような物言いになっているのが痛ましい。

そこにきて「ボクに全部押し付けるな!」というシロボンの痛切な叫び。あとに続く台詞もまるで子どものわがままのような素直さであるのだが、このシロボンの不満の爆発は幼いように見えてもマイティが決して他人に開示できなかった感情をありありと見せつけている。嫌なことは嫌だと口にし、率直に泣き叫び、目の前のゼロとその場にいないマイティがこんがらがった状態のまま不満をぶつける。仏壇の前で死んだ人に生前の文句をぶつけているようなレベルのことをこの大事な局面でやるというのが凄い決断だが、このアニメでは幽霊がいるわけでもないので肝心の本人にそれは伝わらず、死因となったゼロがそれを聞いたところで取り返しもつかない。

「こんな嫌なことばっかりのボンバーマンなんか大嫌いだ」という叫びは先の回想の「ボンバーマン好きなんだ」を踏まえるとあまりに辛い一言であるし、「僕を許してくれるのかい?」と問うゼロに対しても「許さない」と言い切り、非情な事実はそのまま受け入れがたいものとして対峙する。それでも嫌な目に遭うのはもう嫌だから、マイティが大丈夫と言ったから、これまで周囲の人達が助けてくれたから、自分はゼロを助けるという決意を口にするシロボンは、ヒーローのようでありながら自らを押し殺すことのない等身大な心までも持っている。言ってしまえばただ少年が弱音や我儘を吐くシーンであるのに、マイティの件と対比して、それがとてつもなくかけがえのないことであると実感できるし、その人らしさを失わないことが他の誰かの助けになるかもしれない可能性を描いている。別の言い方をすれば、シロボンは躊躇いなく自らの弱さを周囲に開示できるからこそ、周囲に助けられ、そして自らも誰かを助けられるまでに変化してきたのだ。

だから、ここで再びバッジの件がある。マックスに蝕まれゆく中、ゼロはジェッターズの一員なんだと鼓舞する意味合いでバッジをつけてと言ったのだと受け取れるが、バッジをめぐる動向に着目してみれば、かつてバーディからシロボンへとバッジが渡りマイティから引き継ぐ形でジェッターズの一員として始まったように、今度はシロボンがゼロへつけるよう促すことで、バッジを介した円環が形作られようとした。

仮初であってもゼロもシロボンも互いに大丈夫になりかけた瞬間にマックスがそれを阻む。ゼロの瞳孔が小さくなり、バッジが落下した時の絶望感は、静から動への音の演出で鋭さを増している上、シャウトまでも人質に取られてしまうという状況の切り替わり、それにより整えられた舞台がまた巧妙だ。マックスがシャウトを人質とし、シロボンがどうにか助けなければならないというこの状況は、1話のマイティの立場をシロボンに置き換えたものになっている。直前のダークフォースボンバー戦やゼロVSマックスとも大きく異なり、敵であるゼロは破損した体で満足に戦えないながら、狡猾さと残忍さを武器にシロボンと対峙しており、所謂ラストバトルが単純な力の比べ合いになっていないのも特筆すべき点だろう。シロボンはシャイングファイヤーボムを、マックスはハイパープラズマボムをこの状況で使えないのだから。なんと、ボンバーマンのアニメなのに威力の高いボム技で気持ちよく締めさせてはくれない!

ここでシロボンの脳裏に浮かぶようにインサートされるマイティの「大丈夫」、そして同じように「大丈夫」と口にしボムを構えるシロボン。最終回があまりに待ち遠しく、1週間が途方もなく長く感じた記憶が蘇る

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