2話「放課後の出来事」
下校中の浩之、あかり、志保、雅史が人気アーティストのライブチケットをめぐって話している様子から開幕。前回の次回予告でのやり取りも早速ここで話されるように、あかりの浩之に対する視点を中心としていた前回から一転して、今回はこの四人を主役とした回だと冒頭で単刀直入に伝えられる。浩之と雅史、あかりと志保のそれぞれがライブチケットを手に入れたのにお互いに打ち明けられないすれ違いが展開され、四人の親しくいじらしい距離感が楽しめる回に仕上がっている。
前回がほぼ席替え中の教室の様子に終始していたのに対して、この2話では、浩之達の学校の風景が劇中でインサートされ、登場人物が過ごす空間を視聴者にも紹介する導入も担っている。この回ではシーンごとに背後で流れる生徒たちのガヤや物音、吹奏楽部の練習や運動部の掛け声といった環境音が心地良い。真剣な眼差しで弓を構えるレミィの意外な一面が見える弓道部の様子、雑用をしている委員長の姿など既に見知った顔も交えつつ、校内の雰囲気が自然な形で封入されているおかげもあって、そこを往来する浩之達と放課後を共にしているような錯覚に見舞われる。さらに、1話に出てきたレミィや委員長と接触する描写と併せて、来栖川芹香というキャタクターの紹介もある。この2話自体はいつもの四人組の内輪の話でありながら、その周辺には実際の高校よろしく多くの生徒たちがいることを思わせる。
自動販売機の前で浩之と志保が交わす会話シーンは、本来ならば単なる立ち話で平板な映像に仕上がりそうなところを、これまた多彩かつ面白みのあるアングル選択ですれ違い様の緊張関係を演出してくるから1カットたりとも流し見させてくれない。互いに秘め事を持っている浩之と志保の対比される顔のアップで焦ったい空気を醸し出したかと思えば、俯瞰やロングのショットを織り交ぜることで抑制的な視線も忘れない。寄り添いすぎず、突き放しすぎずの調整がとにかく巧みなのだ。大体こういったすれ違いの展開は可笑しさにフォーカスしたコントに陥り、登場人物の焦燥する内面をもっともらしく味付けして楽しませようという趣きが見られることが多い中、今作はあくまで実際にこういうことが学校の自動販売機のある一角で行われているのかもしれないという質感を持たせてくるのが独特だ。
とはいえ、お互い腹に一物抱えた会話には、たしかに物味遊山な好奇心が刺激される。表面上で交わされる言葉が本心であるとは限らず、かと思えば後々重要になってくる心情が言葉の端に垣間見える。結果、スリルと隣り合わせの、おかしみのある会話劇になっている。1話では単にお調子者な友人キャラという一面に終始していた志保が、ここでは浩之に対して素直になれない内面を覗かせ、彼女だけは四人組の中では中学からの仲であることをこぼす。さりげのない言動から志保個人が浩之たちとの間に感じている隔たりが見えるが、一方の浩之はそんなこと気にも留めないで志保と共有している中学時代の紙パックを踏んづける遊びを披露するあたりから両者の親密さが伝わる。そして、志保から投げられた紙パックは、チケットの件を打ち明けられなかった浩之の寂しさを印象付けるように踏みつけられ、踏みつけ方から空気の抜け方まで丁寧な演出が施されている。
教室と階段を固定で捉え余計なカット割りをせず片方が画面から退場した後にもう片方が映り込むというカットや、浩之と雅史の廊下での会話を捉えた後にカメラがパンして扉からあかりが出てくるカットは、えてしてコミカルで大仰な味付けになりがちなすれ違い模様を、まるでリアルタッチの実写作品の如く偶発的な出来事のように思わせる。そのもどかしさをあからさまには打ち出さないところまで含めて、他と一線を画すスタイルのこの第2話のすれ違い劇を象徴するカットだ。
結局、志保たちも浩之たちも目当てのライブチケットを手に入れながらも浮かない様子。ライブの入場列にて志保はあかりに何かを言おうとする寸前でカットが浩之たち側に切り替わるが、ここは志保が何を言い出すかは一目瞭然という判断の上での省略だろう。その直後に浩之は志保たちに言いそびれたことを雅史に打ち明けて辞退し、雅史も彼女たちに悪いと言って辞退する。そして、あかりと志保が揃ってこの場面に合流してくることで、彼女たちも同じやり取りがあったということを視聴者もごく自然に推測できるようになっている。カットはすれ違うように切り替わったが、互いに考えていることは同じという関係であることをかえって浮き彫りにする省略だ。
志保とあかりが先に浩之たちのチケットの存在に気づき、片や浩之と雅史は事態を飲み込めず呆然としているという非対称の中、最後のカットに持ってくるのは「チケットは4枚あるんだから」というハーモニー演出のあかりの笑顔。「事実に気づいた浩之たちが喜び合う」といった光景は省略されているが、そんなのは描くまでもなくありありと見た人の目に浮かぶことだろう。あるいは、晴れてライブに4人で参加している様子を締めに持ってくることもできただろうが、この回は四人全員でライブに行けると知ったあかり達と視聴者が同じ目線に立ったということに重きを置いて、このラストカットが選択されたと受け取れる。揃ってライブに行きたいというのは無論劇中の4人に共通する想いであり、それ自体は自明なことだ。だから、この回では視聴者と四人の持つ情報に差異を設け、微妙なわだかまりを感じさせ、最後に解消が果たされるという快をもたらすことで、ひいては四人の仲を無事に見守ったという感覚を最後に抱けるのだ。
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