どこか憎めないひねくれ者『グリンチ』レビュー【ネタバレ】

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アイキャッチ画像: (C)UNIVERSAL PICTURES

こんにちは、openrecでスプラトゥーン配信し始めたワタリ(@wataridley)です。

今回はミニオンを生み出したイルミネーション・エンターテインメントの3DCGアニメ『グリンチ(原題: The Grinch)』のレビュー。

グリンチは以前にもジム・キャリー主演で映画化されていたそうですが、そちらは未見の状態です。人間が緑色の獣人を演じるという発想を映像で起こしている点に強烈な興味があるので、いつかは見てみたいです。

このグリンチというキャラクターは公開前から宣伝で目にする機会が多く、劇場の予告、チラシ、ポスターなどはもちろんのこと、イルミネーションと業務提携しているTOHOシネマズでは他の映画での上映開始前に専用のインタビュー映像やショートムービーが流れていました。

そのため、それだけの力作なのだろうと期待して鑑賞に臨みました。

簡単な感想を述べると、『グリンチ』は童話のような絵本の世界を世界有数のクリエイター集団が立体に起こし、命を吹き込んだとも思えるゴージャスな映像美に道徳的なストーリーを提供していたと思います。反面、グリンチの気難しい性格に反してストーリーはとてもシンプルのため、良くも悪くもさっぱりと後に残りません。

以降、その詳細な感想をネタバレありで書いていきます。


59/100

ワタリ
一言あらすじ「他人の幸福は自分の不幸、他人の勝ちは自分の負け、じゃない」

息づいた絵本のような世界

クリスマスに起こる心温まる物語は、3DCGによる温かみのある造形美術によって支えられている。現実離れした風景、道具、仕掛けなどの潤沢な映像表現に視界をジャックされながら、86分を過ごしていた。大きく分けて舞台と道具には拘りが随所に見られた。

 

フーの村

物語の舞台となるフーの村は、非現実的な形の建物が立ち並び、雪化粧と色とりどりのオブジェクトがミックスしたビビッドな景色が楽しめる。特にクリスマスシーズンとあって、夜にはイルミネーションが燦燦と輝いており、グリンチが嫉妬するのも無理はないというぐらいにみんな楽しそうである。

街中にはソリで降っていける坂道やスケート場といった遊び心に溢れた設備が置かれている。建築基準法も舗装も雪かきの概念もないらしいこの街はヘンテコな形の車や建物が所狭しとと並んでおり、数々の装飾品も助けて猥雑だ。その猥雑さがこの街の賑わいを演出しており、益々グリンチの整然とした家とは対比的に映るようになっている。

そこに住んでいる住人もソリで爽快に移動したり、積もった雪で遊んでいたり、スケート場を埋め尽くしていたりと、大賑わいで楽しそうだ。

巨大ツリーに飾り付けられた人々のオーナメント群も彼らの集合的な暮らしぶりを物語っている。

とにかくフーの村は人々の伸び伸びとした共生を感じることのできる風景画が広がっており、真冬だというのに全く寒い気持ちにはならない。こんな街があったら住んでみたいも思わせる理想郷のひとつとして、捉えることができた。

(C)UNIVERSAL PICTURES

 

グリンチの家と発明品

グリンチは1人寂しい生活を送っている。その暮らしぶりはマックス以外の誰かと極力関わらないようになっている。

外に立てかけてある看板はあらゆる言葉で訪問者を拒んでいる。これを見たら誰もが踵を返すことだろう。

しかし、そんな孤立したグリンチは、きちんと生活システムを構築しており、不便なく暮らしている。

朝起きてグリンチが飲むコーヒーを、マックスはもはやプログラムされたかのような慣れた手つきで淹れる。原始的な滑車式エレベーターで彼の部屋まで到達できるようになっているばかりか、エレベーターの側にはどこの部屋からヘルプサインが出ているのかを見分けるランプまで付いている周到さ。

彼の暮らしは孤独を確保ためにありとあらゆる頭脳と労力が投入されている。そこからグリンチのキャラクターが浮かび上がってくるようになっている。また、それでいてマックスという存在がいかに彼の生活に必要不可欠であるかも導き出される。

グリンチはイタズラにおいても発明品を生み出す。

サンタクロースの変装帽子はポンポンを引けば、ヒゲが飛び出す。キャンディの杖は灯りになり、更には物を引き寄せる窃盗ツールにもなる。改造ソリは高級車の如くツヤがあり、トナカイ役への鞭も自動式。盗みに入る家を数えるメーターまで搭載。

とにかくグリンチの目的達成を直球に手助けするアイテムの数々が見ていて楽しい。子どもの頃にこんなものがったらいいな、と思っていたものがグリンチのいたずら道具として具現化されていくとこちらも悪戯心が刺激される。まるでドラえもんのひみつ道具のようでもあり、欲しいと思える。特にジャバラ式ブーツを体験してみたい。

これらの発明や仕掛けはグリンチの生活様式を映す鏡であると同時に、目的のためなら手段を選ばない子どもっぽさの象徴だ。

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個性的なキャラクター

ひねくれ者のグリンチ

他人が楽しそうにしているのが気に食わないひねくれものグリンチ。

緑色の体毛で覆われたノッポな体に、シャープな目つき、赤みが買った唇といったクリーチャーの外見をしているものの、劇中では周囲の人物が彼を怖がる素振りは見られない。

彼が1人ぼっちでいる最大の原因は、やっぱりみんなと仲良くしようとしない性格にあるのだろう。唯一自分の味方をしてくれる親友のマックスと2人で洞窟に住んで、発明品で不自由ない暮らしを演じる日々。しかし、クリスマスムードに包まれた街の光から目が離せない。意地を感じる暮らしぶりである。

さしずめ「楽しそうにしているアイツらと交わるなんてまっぴらごめんだ、俺は俺でやるから」といったところか。この傾向はグリンチに限らず、現実世界でもよく目にする。本当は仲良くしたいけど自分から歩み寄るのはダサい。だから向こうからすり寄ってくるのを期待するのだけど、現実そんなことは滅多にない。だから、そんなこと繰り返しているうちにどんどん閉じこもってしまい、果ては内向き志向が外への憎悪に代わってしまうなんてこともありえる。

しかし、グリンチとて根っから悪い奴ではない。相棒のマックスにつらく当たった後には謝罪して2人で遊ぶし、壁にかかったマックスとのツーショット写真は嫌々な表情しているけれど、それを飾らせている。サンタになりすます準備段階でついてきたフレッドも寝床で添い寝することを許すし、家族がやってくれば計画に不利益を承知で背中を押す。

惜しんでいただけで、実はきちんと親切心を持ち合わせているのである。シンディ・ルーとの邂逅により、良心を刺激されることになる。だが、それはきっかけに過ぎないのかもしれない。

声を演じた大泉洋は文句なしの適役である。実質本編の9割方が一人芝居だったにも関わらず、彼の表情豊かな声や台詞読みで最後まで耳を愉しませてもらった。

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親友犬のマックス

グリンチの生活に欠かせない親友の犬マックスは、グリンチとは共存・共犯関係にある。彼のいたずらにはもちろん協力するし、そのためなら過酷な吹雪の中を一緒に歩くことも、自分の体の何倍もあるソリを動かすことだって出来る。

毎日グリンチからの呼び出しに応じて、コーヒーなどを届けに行く姿はキュートであるし、それをフレッドに横取りされた時には嫉妬の表情を浮かべるものだから、よほど生活に根付いていることがうかがえる。

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また、彼の寝床に飾ってある写真からグリンチによく懐いている様子が見えてほほえましい。おそらくフレッドのように、グリンチから当初は煙たがられてはいたが、付きまとううちに一緒に住むようになったのだろう。

マックスの存在がグリンチの独りよがりを可愛げのあるものへと変えていた。彼がいなければ、それこそグリンチは本当に可哀そうな奴になっていたにちがいない。今作の影の立役者である。

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他人想いのシンディ・ルー

シンディ・ルーは、母親のために北極まで出向こうとする心優しき行動派の少女。

グリンチとは相反する性格であり、彼とのファーストコンタクトを見てもそれは明らかだ。

乗り気ではない友人を説得させるだけの論理性、ソリを勢いよく滑らせてもバランスを保つ操作技術を持っており、幼い体からは想像つかないパワーを秘めている。

彼女の純粋な気持ちがグリンチの心の氷を溶かすベタな展開なのだが、お母さんのためにいろいろ画策する過程を追ううちに入れ込みたくなるキャラクターになっていた。

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忙しくても愛情を疎かにしないママ

シングルマザーで3人の子供の面倒を見ながら、夜は働いているというドナ。

しっかり者であるが、多少おっちょこちょいな部分もあるというギャップが魅力的だ。

またシンディ・ルーが何やら企んでいることを知りながらも、彼女の行動を口出しせずに見守る度量の持ち主でもある。

あるシーンでは北極へ行くという彼女にやめなさいと告げるよりも先に、まずは行ってらっしゃいと背中を押す。ささいなやり取りではあるが、子どもを信頼している姿勢が現れている。

シンディ・ルーが助けたくなる人物として説得力をもって描かれていた。

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能天気で騒がしいブリクルバウム

ブリクルバウムはグリンチのことを親友だと言い、常に彼に友好的な態度をとるちょっと騒がしい男性である。

しかし、何事も良いほうに取る彼の性格は、作品にとっての癒しにもなっており、自分の猫が自分のためにケーキを取ってきてくれたなどという心配なやり取りがかえって彼のコメディリリーフ的な魅力と底抜けに明るい人柄を強調している。

また、サンタさんを純粋に信じる面もあり、とにかく悪意が感じられない。グリンチは疎ましがっていたが、唯一彼を友達呼ばわりする積極性が眩しかったのかもしれない。

日本語吹き替え版のロバート秋山のうるさい!けどいいヤツ!という主張の激しい声がハマっていた。

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グリンチと違ってひねりのないストーリー

キャラクターや世界の造形には親しみを持てたが、ストーリーは非常に弱い。グリンチの性格に反して、映画は全く捻りなく終わってしまうのだ。

今作の主題は、1人ぼっちでいる人間が純真無垢な少女に触発されて優しさを取り戻すお話である。正直、これはグリンチとシンディ・ルーの設定に振れた瞬間、誰もが条件反射で感付くことだろう。

そして、物語はそのままストレートに展開していく。シンディ・ルーはサンタにお願いするために策を練り、グリンチは村を混乱に陥れるためにサンタになりすます、というはっきり対照的な2本軸が構築され、最後にそれが交わる。そして、上記のようなハッピーエンドで幕を閉じる。

グリンチがひねくれて村から離れて生活している景色やマックス、フレッドとの交流で少なからず憎めない部分があるといったキャラクター描写に関して言えば、上述してきたように楽しく見ることができた。

しかし、今作はそのキャラクターが変化していく過程、つまりドラマの部分に関してはあまりに安易なプロットである。純粋な子供、疲弊した大人、孤独からの脱却、他者への親切など、古今東西語りつくされた題材ばかりが並んでいる。

安易なだけならまだしも、それを飾り付ける工夫も特段見られない。グリンチのクリスマスを盗もうとする準備やシンディ・ルーのサンタ捕獲作戦は面白いのだが、いかんせんそこに彼らが相互に作用し、変化の兆しを魅せるといったこともないのだ。

グリンチは、なぜ独りぼっちになっていたのか?についても孤児院や誰もいないクリスマスといった簡易的な回想で済まされてしまっており、それをきっかけに豹変した様子も描かれない。街の人々がグリンチを嫌っているという描写もなければ、そもそも彼らはグリンチをどう思っているのかさえわからない。シンディ・ルーとドナ以外のキャラクターでは、ブリクルバウムぐらいしか一般市民的存在が出てこないため、200軒以上あるという街にそれほどの内容を感じ取れないのである。

丹念に描かれるのはグリンチの現在形か、もしくはシンディ・ルーのミニマムな計画シーンぐらいで、どちらも壮大なドラマはない。細々としたキャラクター描写に徹している。

更には、この予定調和なお話を促進させてしまっているのが、時折入るナレーションである。正直、今作はほとんど映像とキャラクターの台詞で表現できているため、説明は不要だ。にも拘わらず、グリンチの心情やフーの村についての解説が入れられる。グリンチが独りぼっちになった様子を示しながら「独りぼっち」と告げられると、こちらの解釈の幅が縮まってしまう。

映画で言外の情報から考察や類推をしてゆくということは、自分で問いを見つけ、自力で解く行為に等しい。一方ナレーションは作り手に問いを明示され、解説を聞かされるようなものだ。答えに行き着いた時の悦びが得られるのは間違いなく自ら探る方である。この映画は、問いも答えも丁寧に提示してしまうため、その間は受動的な時間にならざるを得ない。

説明も相まって極度に単純化されたプロットは、予想外に着地するわけでもなく、想定の範囲内に収まる。シンディ・ルーの純粋な願いは、グリンチの変化に押されて存在感を発揮できておらず、グリンチのパラダイムシフトも唐突さが否めない。だが、とにかく2人は平和に暮らすという結末が決められているため、物語は狭いところで細々と幕を閉じるしかない。

キャラクター描写が入念だっただけに、ストーリーの薄さが目立ってしまったのは惜しいところだ。

(C)UNIVERSAL PICTURES

 

まとめ: 冬に楽しめる痛快なアニメーション

『グリンチ』は、流れるように現実離れしたアクションや工夫いっぱいのギミックが繰り出されるムービーだ。更に、グリンチも共感も面倒くさい性格をしておきながらどこか憎めないマスコットになっている。

今作はまるでクリスマスツリーのようだ。豪華な飾り付けが暗い気分にも灯りをともしてくれる。一方で、季節が終わるとすぐに片付けられてしまうほどに後に残るものもまた少ない。

だが、裏を返せばそれは誰も入り込みやすい作品になっているとも言える。グリンチというネガティヴな感情を振り回すキャラクターを見守っていられたのは、アニメーションの持つ力による。

今作は観客の楽しいひと時に貢献する冬のアニメーションに違いない。

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