『ToHeart』4話「輝きの瞬間」感想

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4話「輝きの瞬間」

いつもの調子で浩之達が校門を通りかかると、格闘技同好会の勧誘チラシを配る生徒の姿が。黒魔術に傾倒する財閥令嬢の次は格闘少女ときて、流石ギャルゲー原作。攻略対象のバリエーションが豊富である。勧誘活動の成果も芳しくない時に偶然通りがかった浩之はその熱意に半ば押される形で放課後に格闘同好会の練習に参加することになる。

アバンでは登校する生徒が過ぎていく中でも健気に呼びかけ続け、昼休みには格闘技の魅力をPRするシーンがあった上で、神社の脇で黙々と練習している様子をじっくりと映すシーンが前半後半にそれぞれ挿入されているのが、なかなか効果的。こういう作品では大抵女の子が愛好している分野は「主人公が女の子に接近するためのダシ」に押し留められがちであるところを、格闘技に取り組むキャラの身体やそれに伴う表情といった動きを高品質な作画・動画で描き込む細部の拘りが、格闘技に懸けている葵の人物像をリアルな存在へと昇華させている。前回の芹香に引き続き、浩之が知り合った女の子とある程度気の許せる関係になるというあらすじも共通しているが、今回はこの練習シーンに質実な動きの面白みがあり、二人が練習後にサンドバッグを運ぶ芝居からも親身になっていく過程の説得力が感じられる。これぞ(アニメではなく)アニメーションと言うべき仕事ぶり。作画監督・千羽由利子によるものと思われる統制も全編に渡って効いていて、全体の中で特に重要な回という訳でもないにも関わらず、終始見応えがある。

ところで、しばらく経って格闘技同好会に慣れてからの浩之と葵の会話は、1シーンの中で複数の処理を行っており、なかなかどうして忙しないことになっている。

①葵の格闘技の目標と動機を語らせる

②葵とかつて同じ道場仲間だった坂下好恵の登場

③葵の目標の人物である来栖川綾香の登場

④好恵との対戦をセッティング

⑤あかりと志保が介入

と書き出してみてもこの1シーンで多くのことが詰め込まれている。30分アニメの枠内で主人公の浩之が1キャラと知り合って、そのキャラの背景を描き、設定された課題を乗り越えるまでを、自然な流れを仕組んで描くという話作りは、やはり相当に難儀したのではないかと思う。

ここで登場する来栖川綾香は前回登場した芹香の妹。原作ゲームをやってない自分からすると、そもそも他校の生徒が唐突に練習を見学しにきていて、それが前回で出てきたキャラの妹と言いながら外見はともかくその性格も言動も物静かな姉とは似ても似つかない、しかもエクストリーム界のスターという鳴り物入りでの登場にも関わらず、その辺りの詳しい説明もない、(彼女で1話作ってほしいぐらい)妙に興味を引かれるキャラクターである。しかし、このアニメ版では綾香の回はなく、ゲームをやれということなのか……。

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ハンガーガーショップであかりと志保も交えての作戦会議では、浩之が格闘技同好会の宣伝を思いつき、志保も話に乗り、あかりがきちんと葵に許可を尋ねるというやり取りに3人の関係が現れており好ましい。葵はそのことに少し逡巡しながらも承知する。ここの俯き加減な沈黙にきちんと間を取っている芝居が細かく、軽々しく二つ返事するわけでないところに、葵の格闘技に対するスタンスが窺えてなお好ましい。結果的に、一人では思いつかなかった案が浩之たちとの交流によってもたらされ、葵の状況を打開することに繋がる。

対戦までの過程は、劇伴を流しながら練習や準備の様子を繋ぐモンタージュで表現。この手法選択自体はありふれていると言ってもいいが、台詞なしで広報活動に励むあかりや志保らを捉えたカットの芸の細かさ(志保が他の生徒たちに広めているシーンのアップからのパン、あかりが掲示板にポスターを貼っているシーンの斜め上からのアングル選択、ややロング気味になる職員室の風景など、カットを経るごとに様相がきめ細かに変わっていくので見飽きない)、そして間に挟まる練習に励む葵の気迫に満ちた表情は見ていて引き込まれる。こういう、省略された時間の中でも確かな出来事の積み重ねがあったのだと断片から想像できるような繋ぎを実現しているTVアニメというのはなかなかに珍しい。

試合の前日と直前に葵は好恵に勝てるのかという不安を吐露するが、浩之が彼女に対して勝ちに拘るのではなくあくまで葵らしくと励ますのは、同好会に参加し、葵の格闘技に対する真剣な姿勢を目撃してきたから出てくる本音なのだろう。ここまでの緻密なキャラクター描写、そしていざ迎えた試合の迫力のおかげもあって、視聴者もその思いに短時間で同期できるようになっている。

筋書き自体は1話のうちに「新キャラを登場させ、その人物に課題を設定し、最終的に解決が果たされる」という王道中の王道をなぞりながら、実際の身体の動きを観察して綿密に描かれたと伝わるアクション作画と緻密な筆致とが組み合わせて葵の存在を描き出している。「頑張っている人の気持ちは必ず伝わるんだ」というあかりの独白も内容自体はともすれば平凡な主張にほかならないのに、そうはならないのもひとえにこの高精細なアニメーションの成せる業だろう。

前回に引き続き、浩之は知り合う葵と明確な恋愛関係にならず、あくまで学年・クラスの異なる友達ぐらいの距離感に終わる。これは当然30分の枠内でそこまで描けないという前提があるとして、1クールの一貫したストーリーの中であかりというメインヒロインを立てている以上、当然の選択だとは思うのだが、その選択の結果、他の生徒と交流を深め、あかり達と共にその手助けをしていくというエピソードの積み重ねが学園生活の賑やかな空間と時間を醸成するという利をもたらしている。

次回がまさにその美点が活かされる学校行事というイベントを舞台にしている訳で、元はアダルトゲームから家庭用ゲーム機にギャルゲーとして移植した作品の起源からは到底及びもつかないような設計になっていると思う所以の一つである。

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