これぞMCUのサンクチュアリ。アリだけに。『アントマン&ワスプ』レビュー【ネタバレ】

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アイキャッチ画像: (C)Marvel Studios 2018

こんにちは、好きなバカボンアニメは元祖天才バカボンのワタリ(@wataridley)です。

今回はアメコミ実写映画化シリーズのマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)第20作目となる「アントマン&ワスプ(原題: Ant-Man and the Wasp)」のレビュー。

前作「アントマン」は「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」の前に発表された作品で、まだアベンジャーズとの接点が殆どありませんでした。ファルコンが顔見せ程度に登場した以外は、刑務所から出てきた主人公スコット・ラングがひょんなことからミニサイズヒーロー アントマンとなり奮闘していく単作のヒーロービギンズものになっていました。

一転今作では、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」でアベンジャーズと合流し、そこでの事件がきっかけで逮捕されてしまい、司法取引によって自宅軟禁となったという経緯が事前にあった上でのスタートになっています。

更には前作のラストで示唆されていたスーパーヒロイン ワスプが本格登場するということもあって、前作以上に一筋縄ではいきそうもない高いハードルが課せられていました。

しかし、自分は楽しむことができました。アントマン2作目の今作は、高いハードルを下から潜り抜けるような作品でした。

ネタバレを交えながら、以下に感想の詳細を書いていきます。


68/100

ワタリ
一言あらすじ「母を訪ねて量子世界」

大きくなったり小さくなったりの楽しさ

前作「アントマン」では主に、「小さくなる」能力が用いられていましたが、今作では「小さくなる」に加えて「大きくなる」が用いられ、サイズ変化の楽しさはやや地味ながらもアップグレードされています。

一旦小さくなった車で敵の車の下に潜り込み、通常サイズに戻って横転させるアクションは、サイズ変化のもつ応用力が伝わってくる映像でした。ワスプが備えているブラスターで、キティや小瓶を巨大化し、敵を倒すという運用方法も、攻撃のみならず道塞ぎや防御に使える可能性を感じました。カーチェイスにおいては、ルイスもこの機能を搭載した車を運転して、参戦していましたし、次回作でもまだまだ新しい用途を見せてくれそうな予感もあります。

研究所を縮小して、持ち歩くという設定も童心をくすぐられました。持ち歩いている最中に中身がぐちゃぐちゃになるのではないかという心配もあるものの、どこにいてもスーツを装着できるアイアンマンにも似た柔軟性と可動性を実現しており、だからこそ奪われるリスクを物語の中心に据えているのも面白かったです。

アントマンとしては小さくなることで相変わらずどこへでも忍び込み放題、攻撃を回避し放題というヒーローにしては小狡い能力が相変わらず発揮されていて面白かったです。ただし、小さくなることで周囲のものが脅威になるという映像もホープに誘拐された時の鳩やキッチンの戦いで表現されていました。

とはいえ、今作はサイズチェンジ全体を扱うようになった結果として、「小さくなること」自体の魅力は、前作の方が強かったと思います。アントマンビギンズからきていた新鮮味はどうしても続編では薄れてしまいましたし、物語の都合上敵が小規模かつ流動的なのでイエロージャケットと戦う前の潜入作戦みたいな小さいことが特段役に立つ場面は印象に残りづらいです。

しかし、今作は今作で縮小とは別の方向からの楽しみを提供してくれてます。「シビル・ウォー 」で使っていた巨大化が本編で初お披露目になって、銃をデコピンで弾いたり、トラックをキックボードのように使う様子は、現実世界でガリバーを目撃しているかのようですし、エヴァンジェリン・リリー演じるワスプが前線にて発揮する美しい強さは前作にはないポイントです。

「小さくなる」面での濃度が高まったとは言い難いものの、着実にバリエーションの広がりは見せていると思いました。

(C)Marvel Studios 2018

 

アントマンをMCUの聖域(サンクチュアリ)たらしめているノリの軽さ

MCUの前作にあたる「インフィニティ・ウォー」は宇宙の半分が消滅するかしないかを巡って数多のヒーローとサノスが死闘を繰り広げるというストーリーでした。

気を抜けば命を落とし、戦争に負ければ銀河中の命が危機に晒される状況は、文字通り死と隣り合わせです。

そして、「アントマン&ワスプ」は、対照的に死の匂いをまるで感じさせない娯楽作に仕上がっています。これはかなり思い切った作風のスイッチだと思います。

MCUの面白いところで、多様なヒーローが同じ世界に同居している設定上「アベンジャーズ」という一堂に会するお祭りを催すことが出来る一方、あくまでそれぞれの単独作としての独立性も保っているんですよね。

「キャプテン・アメリカ」や「アイアンマン」では、彼らがアベンジャーズの中心的存在であるが故に、いやが応にもアベンジャーズの話に吸い寄せられるメリット&デメリットがありました。

しかし、アントマンことスコット・ラングは、当初は人目につかないところで犯罪に手を染めていた小さな人間です。アベンジャーズが世界中の危機を救う一方で、これなのです。そんな彼が、スーパーパワーを手に入れる過程が前作で描かれています。

今作においても、アベンジャーズから独立した存在でいられるのは、間違いなくスコットが、過ちを犯してしまう人間であり、娘のいる父親であり、普通の会社員であるからこそでしょう。

彼の前に広がるメインテーマは、ヒーロー映画に付き物の「生きるか死ぬか」「平和を守れるか」などではありません。「娘の父親として善良でいられるか」であり、そのために「社会的に真っ当でいること」の方が彼にとっては大きな問題なのです。

その問題を利用して、今作は「シビル・ウォー」の事件がきっかけで自宅軟禁されているスコットが、FBIの監視を誤魔化してホープとハンク・ピム博士に協力をするなんともコントじみたプロットになっています。この「警察に悪事がバレるかバレないか」という滑稽なシチュエーションは、アントマン以外のMCU作品ではなかなかお目にかかれないでしょう。

冒頭のキャシーとのごっこ遊びは、社会的に身動きがとれない状態でも何とか娘と交流しようと務めるスコットの健気さが垣間見えて、興味惹かれるスタートでした。あとキャシーが相変わらず、可愛い。

(C)Marvel Studios 2018

スケール感だけで言えば、前作と今作の冒頭でも流れたミサイルを食い止めるべく自らを量子サイズに縮小しジャネットが消えるシーンが1番の大事件で、むしろその後に続く今作のドラマは世界全体にとってはとても小さな出来事です。

今作の主たる目的は「ジャネット捜索」であり、ホープ達にとって重要であっても、世界の平和に帰する問題ではありません。「母親と再会したい」という動機のために奔走するワスプは、スーパーヒロインにしては珍しいぐらい極めて個人的な動機で動いています。「ワンダーウーマン」のダイアナが義憤からそれまで無縁だった外の世界へ飛び出し、軍神アレスを追ったスタンスとは異なり、今回のワスプはどちらかといえば内向きです。

そのため、道中ではスコットを少しからかうような余裕も見せており、この映画に緊張感が漂うことを抑えてくれてもいます。これが世界の危機的状況下ならば、学校でスーツが故障したスコットとワスプのやり取りには苛立ちを覚えるはずですが、比較的軽い目的であるからこそユーモアを違和感なく交えられるようになっているのです。

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極めつけは、敵対するゴーストと武器商人のソニーらが、まるで平和を揺るがすような脅威たり得ない矮小な存在として描かれていることも、映画のいい意味での軽さに寄与しています。

ゴーストは、量子実験の影響による激痛といずれ消えてしまう運命から逃れるために、ピム博士の研究所を狙っていました。私怨やテロといった壮大な理由はなく、あくまで自己保存の本能が働いたにすぎません。サノスのように白黒はっきりつけ難い問題に比べると、とてもシンプルです。彼女もまた内向きな理由で行動している点が、ワスプと重なっています。

能力の物体透過にしても、殺傷能力の観点で言えば、さほどのものでもありません。ピム博士を脅すのに、人体に向けて一度使用しましたが、作中では結果として彼女は誰の命も奪っていません。

能力が自己の存在を脅かす様はウロボロスのようです。物体をすり抜けて、車内に侵入し、壁をすり抜け、攻撃を避けられる一方で、それは自己の消滅の可能性を示してもいます。ウロボロスを彷彿とさせる能力です。

「スパイダーマン3」のサンドマンも実験に巻き込まれて、特殊能力を開眼したキャラクターですが、こちらは寧ろパワーアップの側面が濃いです。サンドマンには別れた妻子がいることやスパイダーマンとの争いが誤解によって成り立っていたことから、複雑なドラマを展開していました。

ゴーストは、その点であくまで自己防衛本能に突き動かされての対立なので、アントマン&ワスプと研究所を奪い合うことに、なんの躊躇もなく、それが作品の明快な構造に一役買っています。また、道徳的な悪を犯そうとするも、恩人に説得され踏み止まる描写にある通り、良心を失っているわけでもありません。だから、最終的に彼女が許されるということも自然で、後味の良さにもつながっています。

(C)Marvel Studios 2018

武器商人のソニーはというと、彼は明らかに人の道を外れた行いや法律違反に手を染めた敵です。ただ、今作においては、そうしたエグ味は全くと言っていいほど映されておらず、あくまで頓馬な悪役に徹していました。同じ武器商人であっても「ブラックパンサー」に出てきたユリシーズ・クロウは、自白剤の天丼ギャグには乗っかったりしないでしょう。

終盤のカーチェイスでは、彼らが他のアクション映画にも見られがちな「銃をぶっ放す雑魚敵」のロールを担っていました。そこに、すり抜けて車内に侵入してくるゴーストがいっそうの危機感を加え、それに抗するためにアントマン&ワスプが縮小と巨大化を遂げるという勢いに目が離せませんでした。小粒な彼らが絡み合うことで、シークエンス全体が彩り豊かな見せ場の応酬になっていました。

(C)Marvel Studios 2018

会話シーンにおいても、スコットとルイスが間の抜けたことを言ってくれるので、全体的に非常に軽いノリで見ていられます。特に面白いと感じたのは、自白剤と量子もつれによる家族再会シーンです。2018年9月時点、Google検索で「自白剤」と入力すると候補に「自白剤 アントマン」と出てくるのも納得なぐらい笑いが起きていました。量子もつれは、ポール・ラッドとマイケル・ダグラスがお手手を繋ぐ画が温かみのあるシュルレアリスムを生んでいて、癒されました。

この通り、「アントマン&ワスプ」は、シリアス真っ只中のMCUにおける聖域(サンクチュアリ)のようでした。MCUであることと、軽口なクライムアクション的要素を混ぜた今作は特に異彩を放っています。

正直なところ、今作はスケールアップは全く遂げていないんですよね。下手すると前作より規模は小さくなっています。しかし、ヒーロー映画がシリーズを重ねるにつれて舞台設定の壮大さやヴィランの強力さをインフレーションさせていくオーソドックスな進化を敢えてすり抜け、相変わらず軽さを重視した続編にした決断は実にアントマンらしいと言えます。

IWを豪華な盛り合わせとすると、アントマンは気軽に食べられるスナック菓子のようなもの。そんな軽食が、「アベンジャーズ4」というフルコースの締めに出てくるというのだから一体どうなることやら予想もつきません。

 

冷や水を浴びせられたような気分になるエンディング

今作は基本的には楽しめる作風ではあるのですが、やはり小さき者が活躍する意外性は前作に引けを取ってしまうとは思いました。

また、いくら敵キャラクターが軽口な作風に合っているとはいえ、あまり魅力を感じづらいという短所もあります。やはりゴーストは「不幸な事故により覚醒し、主人公と敵対する」というあまりに使い古されたアメコミヴィランのパターンですし、中盤に長々とそのことを回想と説明で語ってしまうというのも浅はかなキャラクター描写としか言いようがありません。

ゴーストを演じたハナ・ジョン=カーメンは「レディ・プレイヤー1」では一面的な敵の組織員を演じていましたが、今作は物語の中心部に近いにもか関わらず、描写が薄いため気になってしまいます。次回作でも出る可能性はあるので、個人的には彼女のパワーアップした活躍を期待したいです。

以上のこれらを今作の弱点と言い表すなら、自分にとっては今作のオマケ映像は欠点です。

今作は前述したように気軽に見ることのできるコミカルな作風がウリになっているんですよ。そうした作風は徹頭徹尾貫かれ、劇場全体が途中何度も笑う場面があり、愉快な気分で劇場を出ようとします。

そこに水を差すかのように挿し込まれたオマケ映像。今作の雰囲気とはまるで逆を行っているものでした。

これは、いうまでもなく「インフィニティ・ウォー」でサノスがスナップした瞬間をスコット達視点で書いた映像です。

「アベンジャーズ4」に繋げるために、アントマンを絶体絶命の危機に晒し、ピム博士たちを犠牲にしたことは、MCU全体からすれば順当なことだというのはわかります。

しかしながら、「アントマン&ワスプ」を一作の映画と捉えたときに、このエンディングは疑問を呈さざるを得ません。なぜなら、ラストシーンは鑑賞した後の観客の心理に大きく影響するパーツだからです。

コミカルな色調で観客を楽しませる道中だったにも関わらず、到達地点に待ち受けているものがバッドエンドというのは、作品内で矛盾しています。

極めつけは、ジャネットも喪失している後味の悪さで、今作は彼女を見つけるために2時間アントマン&ワスプが奔走し、観客もそれを見ていたわけです。だのに、最後の最後に救ったはずの彼女までもが消えてしまうのではあまりに救いがないでしょう。

「アベンジャーズ4」は「インフィニティ・ウォー」以上に出演キャラクターが増え、やることも多いために、アントマンはここで合流地点を設けなければならなかった事情も窺えますが、結果として一本の作品としての完成度を不安定にしてしまったように見受けられました。

納得しがたい結末の先に待つ「アベンジャーズ4」でアントマンが活躍し、博士たちを救ってくれることを願うしか今はできません。

(C)Marvel Studios 2018

 

まとめ: アントマン&ワスプよ、帰ってこい

「アントマン&ワスプ」本編はヒーローものでありながら、スコットという人間を身近に感じさせる映し方、広がりすぎないスケール感を活かし、観客に入り込みやすい間口を作り出していたと思います。

結末にある不満も、裏返せば「アベンジャーズ4」への希望ともなりえます。

今作ではアクションのバリエーションが増え、MCUにおける異色作たるアントマンの立ち位置が鮮明化しました。「Ant-Man and the Wasp will return?」には、次回作が出るのか?というちょっとの疑いと、是非とも帰ってきてくれ!という大きな期待感を持ちました。

ここまで読んでいただき、蟻がとうございました!

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