ワタリドリの手帖

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 こんにちは、ワタリ(@watari_ww)です。


 突然ですが皆さん、スタジオライカが作り上げた傑作ストップモーションアニメ映画「クボ/二本の弦の秘密 (原題:Kubo and the Two Strings)」はご存知でしょうか? 

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 知らない?

 

…仕方ないかもしれません。

 現在公表されている週間の興行収入・観客動員数そのどちらのランキングにもその名は見当たりません。(ちなみに筆者が前回レビューした鋼の錬金術師は初登場1位です)


 「お金も客も数字が目立たないのならたいした映画じゃないんじゃないの?この時点でそう思ってしまうのは自然な事だと思います。

 しかし、観もせずにそう判断してしまうのは損だ!と声高に訴えたい。

 

 かくいう筆者も、この作品を知ったのは、Twitterで映画の感想を述べる熱心なシネマファンの方々を通じてでした。 


 ↑日本映画のポスター風イラストまで描かれている人もいます。

 この熱い言葉の数々を目の当たりにし、今までランキングに入る大作映画ばかり観ていた自分にも興味が沸きあがってきました。

 

 結果として、このレビューを書いている時点で字幕版・吹き替え版をそれぞれ1回鑑賞。まだまだ熱は収まる気配を見せません。


 今回は主に、「まだ観ていないけどクボって何?」って方向けに筆者が作品の良さを紹介させていただきます

 

 こんなにもすばらしい作品なのだから、もっと多くの人に知ってほしい!その気持ちで今筆を動かしています。

 

 わかりやすく4つの項目に分けて語っていこうと思います




90/100

 

一言あらすじ「三味線弾きの小僧クボが、お供のサルとクワガタを連れ、3つの武具を探しに旅に出る! 」




瞬きすら憚られる『映像』

 まずこの作品について語る際に触れるべきはおぞましいほど拘り抜かれたストップモーションでしょう。

 

 ※ストップモーションとは人形などを用いて、1コマ1コマを写し、徐々に動かしていくことで、最終的にあたかも人形が動いているような動画にする映像技法。

 

 日本では手描きのアニメ、アメリカではディズニー、ピクサーを筆頭とした3DCGアニメが人気を博している中で、今作は、所々CGを使いつつも、実際の人形を作ってから画を撮っているわけであり、なかなか原始的なやり方。

 

 そのため3DCGを作るのとは色々事情が異なって来て、たった3.31秒作るのに1週間かかるぐらい大掛かりな作業を要するみたいです。

 

 作中、けっこう激しいアクションシーンがあるのですが、一体どれだけの時間をかけてあの動きを作ったのだろうと、考えると身震いします。非常に滑らかにスピーディに動いていき、ストップモーションであることを忘れてしまうぐらいでした。

 

 人形はCGと違ってケアが大変ですし、実物である以上、誤魔化しが効きづらい分360度抜かりなく作り込まないといけません。

 

 本作に登場する主人公 クボ、旅のお供のサルとクワガタ、クボを狙う悪役 闇の姉妹は公開されてから12月1日まで新宿バルト9にて展示されていましたが、上映後に観ても、全く映画と変わらない姿で佇んでいました。 


 表情、肌の質感、毛並み、金属部分の光沢など、相当な気合いを入れて製作されたことが伝わり、感嘆しました。

 ↑また展示されるみたいです。急げ!

 その人形を用いて膨大な撮影回数を重ねて、102分間ずっと滑らかに動くものですから、その根気と技術の集約に対してだけでも高評価を与えたいぐらいの出来なのです。

 

 拘りは、登場人物のみならず、背景や小道具に至るまで徹底しています

 

 あるシーンでは嵐の中で揺れ動く波が出てきます。「さすがにこれはCGだよなあ」と思いながら観ていましたが動きがやけに自然で、作品の色合いにやけに溶け込んでおり、上映後に観たメイキング映像にて、実物の素材で海を作り上げていたと知りひたすら驚愕しました

 

 映像のディティールが極まっているため、観た後にあれはどうやって作られていたの?と気になるし

製作過程を覗くと、あれ本物だったの?というサプライズまできっちりあるのは貴重な映像体験です。

 

 また、本作でキーアイテムとして頻繁に出てくる折り紙の描写もお見事。クボは三味線を引くことで、折り紙を操る能力を持っていて、それが映像に見事な面白みを付与しています。

 

 紙の侍が戦を演じたり、独りでに紙が折れて鳥が生まれ羽ばたいていったりする描写が活き活きと展開していくのは、目で追っていてとても楽しい。これすらもCGではなく、きちんと実際に作ったというので、本当に凄いのです。

 

 まずは、映像の素晴らしさについて紹介しましたが、こうした作り手が一生懸命に作り上げたビジュアルは、ストーリーと共にさらりと流れていきます。

 

 ネタバレは避けますが、物語の途中に出てくる1番労力かけたであろう、物凄く大がかりなとある仕掛け。 これすらもあくまでただの1つのチャプターのお話で済ましてしまう潔さ。ふつうこんなのを作ったら、そのシーンを最大の見せ場にして、何度も作中に出したりしたくなるのが心理なのに…

 

 「俺たちが作ったもの、すごいだろ!」ではなく画はあくまで作品が扱うテーマやメッセージを適切に伝えるための手段にすぎない。

 

 観客が物語を追いたくなるように最大限拘り抜いた映像と、しかしあくまで物語と作品世界を最優先した作りは、スタジオライカの映画作品そのものへの誠実さが伺えました。



奥ゆかしい『世界』

 クボはメチャクチャ映像が凄いけど、それはあくまで物語や世界を表現するための手段に過ぎません。

 

 舞台は封建時代の日本。とは言っても時代設定に関しては、細かく指定しているわけではなく、魅力的な日本のファクターを拾うために、敢えて適当に済ましていると解釈しました。

 

 日本といっても七人の侍のように「舞台は戦国時代の1568年。だから着ている物や人々の生活様式はこうで…」といった縛りは敢えてせず、三味線、折り紙、侍、甲冑、兜、猿、月、大仏、灯篭流し等といった各要素をバランスよく混ぜ、面白みを優先しているというわけです。

 

 それぞれ最低限のリアリティを保っており、日本の文化を尊重しているのがひしひしと伝わってきました。

 

 作品に込められた価値観・文化・空気を感じていくとわかるのですが、これらは単にエキゾチックさを演出するために日本が選ばれたわけではありません。

 

 作中では灯篭流しと死者への弔いが描かれます。
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 死して尚も人々の内に存在し、生きている者が思いを馳せ、形にすることで死んだはずの人間も、ある種「生き続ける」。そんな考え方が、美しい映像により表現され、ストーリーにも重要な意味を持っています。

 

 人の死というものは、普遍的なものです。世界中の誰もが他者の死を経験し、自分もまたいずれは死を迎えます。日本ではそれにどう向き合っていたのかをクボという幼き少年と彼が歩む冒険を通して知ることが出来、それが作り手のメッセージに説得力を与えていました。

 

 言わば、日本文化というフィルターを通じてより効果的に伝えられるテーマであるため、「日本が舞台である」ことには極めて強い必然性があるのです。

 

 スタジオライカはアメリカの会社ではありますが、この死生観の描写はまるで外国っぽさを感じない。たしかに日本の風習と思想を感じ取り、誠実に作品に取り込んだ事がわかりました。

 

 また、作品に出てくる印象的な意匠として、「月からの使者」「動物の旅のお供」「3つの宝」「物に魂が宿る」「目を欠いた語り手」等が出てきます。

 

 これらは当然、桃太郎や竹取物語といった日本の古典作品に見られる要素であり、親しみのある物語が、この作品ではまた違った役割を持って取り入れられているのも見所になっていると思いました。日本人であるからこそ、些細な部分から元ネタを探ったりして、世界の奥行きを強く感じることができるのではないでしょうか。

 

 ロケーションも豊富でありながら、人工物よりも手つかずの自然風景に比重を置いていて雪原、遠方に見える富士山のような山、緑豊かな竹林、色づいた落ち葉が散っている湖畔といった印象に残るシーンも多数あります。 

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クボ

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 東京に住んでいるとなかなかこうした景色を見ることができないので美麗な画面を通して、改めて和の自然はきれいだと思わされました。

 

 自分が気に入った風景は、前述の灯篭流しに加えてクボと母上の住処ですね。二人の置かれた状況と関係性を暗示するのに、これ以上ない空間です。どちらも比較的早くに出てくるので注目してみてください。

 

 このようにクボは

  • 美しいばかりでなく、きちんと中身が伴った世界
  • そこで適材適所に用いられる日本の文化
  • それらを普遍的な娯楽性と道徳へと昇華させている

だから世界が魅力的であり、心にも残る作品となっているわけです。

 

 映画館へ足を運び、作品世界へとトリップする行為は至上の映像体験であり、まだ観ていない方には、ぜひクボの世界を大スクリーンで体感してほしいと思っています。 


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愛おしい『キャラクター』

 本作を観れば、キャラクターみんなを好きになる事間違いなしです!

 

 キャラクターは登場数は必要最低限に絞られていて それぞれ描写が不足しているなんてことはありません。どのキャラクターにもドラマがあり、愛嬌があり、確固たる目的を持っています

 

 主人公クボは、三味線を弾くことで折り紙を操る不思議な力を持った少年です。「If you must blink, do it now!(瞬きするなら、今のうちだ!)」という決め台詞を合図に三味線の弾き語りを始める姿は格好良いですし、この「語り」もストーリーにおいて重要な意味を持ってきます。


冒頭の紙芝居ならぬ折り紙芝居は映像が公開されていますので目を通してみてください↓

 

 格好よさ以外にも多面的な魅力を持っているのがクボ。何といっても不在の父親に思いを遣る仕草、サルとクワガタと出会い満たされる様子には思わずホロリときてしまいます。

 

 「親のいない悲しみ」は日本の漫画で言うとNARUTOでも描かれていたと思いますが、クボはそれを冒頭から見せてくるので、ここでグッと彼の事を応援したくなるはずです。

 

 ちょっとドジで悪戯っぽい一面もあり、不思議な力を持っていながらも、「こんな子いそうだな」と思わせる親しみやすさを融合させたすばらしいキャラクターだと思いました。

 

 原語版では、まだ声変わりしていない子役(当時)アート・パーキンソンが演じていることもあって

ナチュラルな少年のように可愛いです。吹き替え版では少年役といったら大安定の矢島昌子さんで日本のアニメを見ているようでした。

 

  そして、自分が最も気に入っているサル。危険な旅のお供として、クボを守るのですが、彼の身を案じるばかりに時折過保護な面を覗かせるので、見ていて愛らしいキャラクターです。 

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 サルの仕草と見た目も気に入りました。毛並みが白くフサフサしているので非常に触り心地が良さそう。一見可愛いマスコットに映りますが、よく見ると手足や顔は血の気の良い真っ赤で口元にもきちんと皺が入っているというリアリティ。

 

 動きも野性的で、毛づくろいはするし、欠伸は大きいし、歩き方ものそのそしています。細かな挙措に着目して観ているだけでも面白い。

 

 クボに対しては厳しくありながら、結局は思いやりがあるというツンデレなキャラクター、なのにお猿さんというギャップは最高です。全モンキーの中で一番好きになりました。 

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(C)バードスタジオ/集英社「ドラゴンボール」より引用

 原語版の声を演じるは、シャーリーズ・セロン
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 直近ではマッドマックスのフュリオサが代表役ですが、こちらは「女性でありながら男にも負けない戦士」です。「強い猿だけど母性を感じさせるお供」なサルとは底で通じる部分があります。

声が格好良いのは勿論ですが、ちらりと見せるマタニティーが抜群に良いです。吹き替え版では「攻殻機動隊」の草薙素子役で知られる田中敦子さん。シャーリーズ・セロンのイメージをうまく翻訳してくれているので、こちらも同様の良さがあります。

 

 もう片方の旅のお供 クワガタも素敵。コメディリリーフは主に彼が担当しており、言葉遊びや茶目っ気のある言動で、割と悲壮感や辛さのある旅を明るくしてくれています。たぶん彼がいなかったらもっと暗い話になっていたんじゃないだろうか。

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 造形はまさしくクワガタムシそのものです。兜に似ていることで命名されたカブトムシと近い種ですが、鋏のような角と4本ある腕、厳つい顔立ち。こんな怖そうな見た目に反して、可愛い言動を取ってくれるのですからギャップの波が終始襲ってきましたよ、ええ。

 

 声を演じたマシュー・マコノヒーは、低く、落ち着きのある声質ながら、侍のような芯の強さを感じさせてくる絶妙な塩梅で演技されていたと思います。それを見事に吹き替えたピエール瀧氏にも拍手。

 

 このサルとクワガタは旅のお供という立場ですが決してクボの付属品などではなく、彼らにもドラマがあります。

 クボのストーリーは1度で味わいきれるものではありません。最初はクボという少年。2度目、3度目は必ずサル、クワガタに着目して観る事になると思います。彼らはそれだけ観客の心を掴んでは離さない、大切な存在になっていくのです。

 

 彼らの他にも敵である闇の姉妹やクボが通っている町の人々も少ない描写で「一体どんな人なのか」を適切に伝えてくるため、登場時間は短くとも、良さをしっかりと認めることができます。 

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 闇の姉妹は恐ろしい見た目で、声も冷たく、残酷なアイテムを使っているためパッとこちらの不安を煽ってきます。彼女らの衣装も和風でありながら、西洋の魔女のようなミステリアスさを持っていて優れたデザインだと思いました。

 

 モブに過ぎないはずの町人も、表情が豊か。クボに親切にしてくれるお婆さんや、無邪気で可愛らしい子ども、子連れの優しいお父さん等は、出番は僅かですが、感情をはっきりと出すので、しっかりと生きている感じがします。 

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 着ている着物がきちんと古びていて、他の人に対するリアクションも豊富、人によってはやんちゃなガヤを飛ばしたりするので、モブだけどきちんと立体感のあるキャラクターを抜かりなく作っているのは本当にすごい。群衆を機械的に扱って適当に済ませがちな映画も多いので、見習ってほしい所。


心に響くストーリー

 ここまで、「映像」「世界」「キャラクター」と述べてきましたが、一番訴えたいクボの魅力はストーリーです

ネタバレを回避するように紹介すると、クボは死生観とそれに纏わる人々の心の在り様に踏み込んだ話です。


 一見すると、可愛らしい人形達が出てきますし、情景も美しく魅力的。アニメーション作品ならば、ファンタスティックな展開、希望に満ちたお話を想像されると思います。

 

 あらすじを見ても、「3つの武具を求める冒険譚」という子ども受けしそうなお話に思えますが、しっかりと伏線は張り巡らされ、論理的に人の心に訴えかける話運びになっています。実は大人の鑑賞にも堪えられるどころか全ての人に見てほしいぐらい緻密に考えつくされた脚本です。

 

 子どもが喜びそうなファンタスティックさはあります。


 スペクタクルなシーンもあります。


 映画館で見るべき迫力は確かにある。


 その点は、間違いない。

 

 しかし、クボはそれだけじゃない。現実にいる私たちが直面する悲しみを扱い、それを通じてとあるメッセージを提示してくる気高い作品になっているのです。 

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 灯篭流しの部分で触れたとおり、死んだ人間は、肉体は滅び、目には見えなくなってしまいます。

では、なぜそれでも死者を想うのか?想うことでその先に何があるのか?それがクボのテーマのひとつであり、日本の儀式や思想と結びついて、その問いかけが氷解していく様は言いようのないカタルシスがありました。

 

 また、生と死のみに留まらず、人々が「物語を語る」意味も取り上げています。自分はクボを観る前と観た後とで、あらゆるアートに対する見方が変わりました。作品を作る人たちへのリスペクトが一層強くなったと言っても過言ではありません。


 すべての物語に意味があると思える作品を究極の職人技と技術で作り上げたスタジオライカには敬服するほかありません。


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© 福本伸行 / highstone, Inc.「賭博破戒録 カイジ」より引用
↑スタッフロール中の自分

 最後に…みんな、一生のお願いだからクボを観て!





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