ワタリドリの手帖

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 昨秋に映画化された朝井リョウ著「何者」について語ります。

 ちなみに、記事は既読者向けのネタバレ満載になります。ご注意を。
何者 (新潮文庫)
朝井 リョウ
新潮社
2015-06-26


75/100


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あらすじ

御山大学演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人。何も考えていないように見えて、着実に内定に近づいていく光太郎。光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。就活はしないと宣言し、就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら、焦りを隠せない隆良。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた22歳の大学生5人は、理香の部屋を「就活対策本部」として定期的に集まる。海外ボランティアの経験、サークル活動、手作り名刺などのさまざまなツールを駆使して就活に臨み、それぞれの思いや悩みをSNSに吐き出しながら就活に励む。SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする本音や自意識が、それぞれの抱く思いを複雑に交錯し、人間関係は徐々に変化していく。やがて内定をもらった「裏切り者」が現れたとき、これまで抑えられていた妬みや本音が露になり、ようやく彼らは自分を見つめ直す。
(Wikipediaより引用)

感想

 この小説が書き下ろされたのは2012年ごろのようで、既にTwitterが普及し、新卒採用におけるWebの役割も拡大している時期でした。

 5年経って作中描かれたWebテストのズル(分担して他の人に解いてもらう)に対策が施されて、今は問題を進めると前の設問には戻れないようになってるなど些細な違いはあります。

 しかし、SNSによってコミュニケーションをとるトレンドや、メールやWebを介した就活システムは基本変わりはなく、2017年の就活生が読んでも所謂「あるあるネタ」を随所に感じました。

 この小説の登場人物は主に6人。
  • 周囲に対して観察的な視線を向ける拓人
  • 何も考えていないように見えて就活がうまくいく光太郎
  • 家庭や恋愛のことで悩みをもちながら就活に挑む瑞月
  • Twitterや名刺などを積極的に活用しバリバリ就活に励む理香
  • 就活に対し批判的な見解を示しながらも焦りを隠せない隆良
  • 拓人にとってアルバイト、サークルの先輩である理系の大学院生サワ先輩

 就活を経験したことのある読者は、これら6人に同調したり、或いは就活生の類型に当てはめながら物語を読み進めることになると思います。

 自分は、周囲の人間たちをどこか見下していながらも内定が取れない拓人に強い共感を覚えました。別に大したことをしているのでもないのに就活がうまくいく光太郎や、逆にガツガツ就活するのに実を結ばない理香なんて、就活にあてはめるまでもなく、身近にいそうな人たちです。

 もう一人、拓人のかつてのサークル仲間であり、就活をせず自らの劇団を持ち、公演を行うギンジにしても、日本の新卒採用システムからドロップアウトした人間として出てきます。

 この小説は、就活という人生の岐路に立たされた若者たちを主軸としているわけです。そこに「Twitter」、「内定」を用いて、それぞれの内面を浮き彫りにしていきます。

 現代はSNSの時代と言っても過言ではないと思います。受験や就活というライフイベントにまつわる情報すらも発信できてまう。不可視なはずの人間関係や自身の行動、思想さえも可視化し、不特定多数に広められる。そんなツールにある種の依存を垣間見せるのが拓人、理香、隆良、そしてギンジ。

 拓人は裏アカウントで周囲に対しての洞察力を陰ながらアピールし、俯瞰する自分を作り上げることにより精神的逃避行を行っていました。その事実が明るみになり、それに向き合う一歩を踏み出す所で物語は幕を閉じます。

 理香は、Twitterに逐一自らの行動を発信することで、出来る自分を演出していましたし、隆良もきれい事な思想を並べ、理想の自分を見せていました。

 そんな中、僕からひとり例外的に映ったのがギンジ。彼はTwitterとブログ上で自らの人脈、活動内容を外部にアピールし、作中拓人からも反感を喰らっています。しかし、前述の3人と決定的に異なり、彼だけは、発信した理想の姿に向かって現実での行動を起こしていました。ネット掲示板で劇団の不評を書かれていることを知りながらも、臆せず目標に向かう意思を終盤Twitterで呟いています。つまり、彼は格好良い自分を演出するという意図からTwitterを利用していたのではなく、外部に言葉を発信し、その言葉に裏付けられる努力や行動も起こしている人間ということ。

 光太郎もまた、出版社への拘りは包み隠さず行動を起こしていました。

 それとは対照的に拓人自身は、同居人である光太郎に対してでさえ、裏アカウント「何者」で陰口ともとれる言動を見せています。そして、就職浪人しながらも演劇への夢を捨てきれない胸の内を素直には周囲に表明しないままです。終盤、それを指摘する香にも反論の言葉は出てこない。

 Twitterに依存的な姿勢を見せず、小さいながらも行動を起こした光太郎、瑞月は一先ず内定という形での成功を手にしています

 この小説は、そういう点で、リアルで自分を表現しない人間=「頭の中のもの」を外に出さない人間は現実で成功を掴めないということを一貫させている、と言えるでしょう。

 ここで、サワ先輩の印象的なセリフを見てみると
「短く簡潔に自分を表現しなくちゃいけなくなったんだったら、そこに選ばれなかった言葉のほうが、圧倒的に多いわけだろ」
(中略)
「だから、選ばれなかった言葉のほうがきっと、よっぽどその人のことを表してるんだと思う」(文庫版P.204)
と、あります。

 そのセリフに照らし合わせていくと、やっぱりTwitterで表現している言葉にある意味全力投球の拓人、理香、隆良はリアルの就活は芳しくない。Twitterはそれとなく適当に用いてる光太郎、瑞月、ついでにSNSをやらないサワ先輩たちは内定を得ている。明暗がはっきりしています。

 就活というものは、内定が出なければ理不尽さを感じるものですし、こと日本の就活制度は、明白な線引きがないので精神的な不安定に陥る人もいるようです(自分含め)。

 でも、この話を通して、たった30分の面接、たった140字のTwitter、たった数千字のエントリーシートだけで人というものは表せない、というメッセージを背後に感じました


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 実は、小説と実写化された映画とで、違いが多少あります。

 映画だとラストの面接シーンでは佐藤健演じる拓人が面接官からの質問に対し「1分間では言い尽くせない」というようなセリフがありました。どうやら映画の方は、そのメッセージをより強調した形になっているようです。
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 選ばれなかった言葉のほうがよっぽどその人を表してる...言い換えれば、就活での面接でその人の全てがわかるわけじゃない。そう考えると、内定を取れず、自己否定に陥りがちな就活生にとってのちょっとした救いになるのかもしれません。

 拓人も最後には、行動を起こしているギンジと、起こしていない自分と、向き合い、就活に挑んでいく。

 内定は決してゴールではないけれど、自分と向き合う重要な通過儀礼である、という事を感じとりました。

 肝心の就活生の自分はそこまで真剣に就活しているとは言えないものの、、、自分の中の望みや目標は外に出すべき、行動すべき、と思った次第です。

 ちなみに本作の派生作として「何様」もあるようです。僕はまだ読んでないので、またの機会にでも。
何様
朝井 リョウ
新潮社
2016-08-31

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